米経済メディア「クオーツ」が無料化 メディアの事業モデル模索続く

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◆メディアビジネスの行方は
 ビジネスモデルを模索するメディアはクオーツだけではない。アトランティックは約10年前にコンテンツを無料化したが、2019年にペイウォールを再導入。スレートは2020年に従量制のペイウォールを導入。読者に対しての寄付を募りつつも無料アクセスのモデルを継続しているガーディアンも、今月よりアプリユーザーに対しての課金モデルを導入する予定だ。

 有料化は安定した収入を獲得する手段の一つではあるが、引き続き無料のコンテンツがインターネットに溢れるなか、コンテンツの対価を払う意思がある読者の獲得と維持は必ずしも容易ではない。実際、ミッションに共感する読者に対するサブスクリプションの事業モデルでスタートした、オランダ発のデジタルメディアサイト『コレスポンデント』の英語版サイトは、2021年1月をもって終了を余儀なくされた。また、ペイウォールの事業モデルを成功させた先駆者であるニューヨークタイムズは、引き続き会員数を伸ばしているが、いわゆるピュアなニュース記事というよりは、ゲームやレシピなどとバンドル化されたコンテンツ・サービスが、成長をけん引しているようだ。

 AIを活用したダイナミック・ペイウォールも新たな可能性として注目されている。カナダの大手新聞グローブ・アンド・メール(The Globe & Mail)は、ソフィ(Sophi)と呼ばれるAIを導入し、読者ごとにペイウォールの導入タイミング・可否の判断を行っている。たとえば、一般的なニュースやレシピ記事を好む読者は、購読者にはならない可能性が高い一方で、ビジネス・ニュースを好む読者は購読する可能性が高い。読者の行動に合わせて、AIがペイウォールを提案することは、効率的に購読者を獲得することにつながっているようだ。一方で、災害やコロナなどの危機に関連する記事に関しては、人間の編集者がAIの判断を無視して、無料化することができる。ちなみに、ニューヨークタイムズは、コロナ関連のすべての記事を無料化している。

 メディアの金銭的な価値は、必ずしもニュースの重要度だけでは判断できない。上記の事例のように、重要度が高いニュースほど、その経済状況にかかわらずすべての人々にアクセスが与えられるべきである。さらに、いわゆる日々のニュースにおける重要度は、その緊急性(タイムリーさ)が鍵を握る一方で、ジャーナリズムコンテンツの重要度は、より丁寧で詳細で時間をかけた調査・ファクトチェック、さらには文章のクオリティそのものなどが鍵を握るもので、こうしたジャーナリズムはよりコストがかかる。

 メディアのビジネスモデルに関しては、一つの解はなさそうだ。引き続きの模索、そしてクオーツのように、状況や時代の要請に応じた変化・変更が求められる。

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Text by MAKI NAKATA