日本の「根回し」、海外のビジネスシーンで脚光? 会議を変え、変革をもたらすテクニック
♦︎優れた根回しとは
ビジネスと技術情報を扱う米ファスト・カンパニー誌は、あるべき根回しの形について、当事者間での合意形成を重視すべきだと捉えているようだ。本格的な会議の前に、個人間で意見を交わしたり、さっと数人で打ち合わせを済ませたりしておく。トヨタの元クリエイティブ顧問であるメイ氏は同誌に対し、こうすることでチーム内の意見を収集することができ、大筋の方向性を見つけることができると語っている。一方通行でなく、意見の収集の機会と捉えるのがポイントだ。こうした方法はトヨタ社内でも積極的に用いられているようで、本会議で揉めてしまうよりもスマートな進め方と言えるだろう。
ビジネスパーソン向けの情報誌『CEOワールド』も、事前にフィードバックを得ることなどを根回しの目的として紹介している。あくまでフェアに情報共有を行うことが肝要であり、自分の主張に有利な事例だけを示したり、すでに決定した事項に従うよう要求するだけになったりしないよう注意を呼びかけている。事前に認識を合わせ、どのような質問が出るかを把握し、意見に耳を傾けることを意識すべきだという。寄せられた反応の状況によっては、正式な会議に諮るまえに計画に見直しを入れることも大切だ。
♦︎根回しで変革を加速
すでに根回しを取り入れ、コミュニケーションの円滑化に成功した海外企業も出ている。オール・ビジネス誌は、iOSおよびAndroid向けのモバイル・ゲームを開発しているソフト企業の例を挙げる。この企業では新規タイトルを開発する際、クリエイター陣、開発チーム、製品管理など、さまざまな部署が利害関係者となっていた。そこでコンセプト策定の段階で各部署から関係者を招き、議論と投票によってコンセプト候補を評価していったという。スピード感が求められる現場では素早いスタートに意識が傾きがちだが、丁寧に「力強いスタート」を切ったことで、結果として後工程での意識のずれを避けることができたようだ。意識合わせの会議への参加者は10人以上とやや多めだったものの、これもある種の根回しだと言えよう。
ソフトウェア企業に限らず、根回しの有効性は今後ますます高まりそうだ。CEOワールド誌は、根回しがコロナ後の社会全般に有益だと説く。今後迎えるであろう社会復興のフェーズにおいては、ウイルスとの共存を前提とした新たな体制の導入が必須となる。そこで求められるのが、計画的なチェンジ・マネジメントだ。チェンジ・マネジメントとは、環境の変化に組織を対応させるため、現状維持を好む反対勢力との間で意見を調整し、変革を実現するための方法論を指す。コロナ以降に訪れるであろう大きな変革を組織内にスムーズに導入するため、根回しが有望視されているというわけだ。婉曲な手法にも感じられる根回しだが、適切な相手を選び要領よく行うのであれば、むしろ、ビジネスの効率化ツールとして活用できるだろう。海外のビジネスの現場でいま、密かな注目を集めている。
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