イーロン・マスク氏は間違っている? 「長時間労働=成功」に異論

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◆英米では労働時間増加 昇進のカギに
 エコノミスト誌は、賃金が高ければ労働時間は減るとする。ドイツ、フランスでは労働時間は減り続けているが、同じ欧州のイタリアやギリシャなどでは労働時間が増えている。結局、賃金の低い国では時間を増やして収入を増やす傾向が強く、賃金が上がれば労働時間は減り、レジャーの時間が増えるという。

 しかし、賃金が高いはずのイギリス、アメリカでは2000年代に入ってから労働時間が増えており、その理由は不平等にあると同誌は述べる。一般に一国の経済、またはある職業における所得格差が大きい場合は、人々は長時間懸命に働き、より収入を得るためのチャンスを増やそうとする。エリートといえども、成功のためにはほかのことには目もくれず喜んで仕事に集中するという態度が必要だというのだ。他人が働いているのに自分だけ休むのは、リスクを伴う行為だとしている。

 実際のところ、アメリカでは昇進の重要要素として、より労働時間を増やすことだと信じる人が78%もいるという(投資サイト『モトリー・フール』)。ポピュラー・サイエンスは、働き過ぎは非効率という証拠を示しても習慣を変えるのは難しいと指摘し、とくにアメリカンドリームを信じることが文化として行きわたったアメリカにおいてはなおさらだとしている。マスク氏の発言も、そういったバックグラウンドが影響していそうだ。

                                                                                                                 

◆マスク氏は口だけ番長? 時短は社会全体で
 ウェブ誌『クオーツ』は、長時間労働が世界を変えると豪語するマスク氏に批判的で、1日17時間時間働いてもまだ世界を変えられていないと述べる。テスラが電気自動車を手ごろな価格にし、自動車の内燃機関に完全に取って代わるものにできるならすごいが、まだそれも起きていない。結局、驚くべき成果を上げていない人ほど、長時間労働という労働倫理を過剰に強調するとし、こういう自慢をする人は、古くて思慮のない主義に傾倒していることを、うっかり露わにしているだけだと辛口だ。

 ロンドン大学シティ校キャス・ビジネススクールのハンス・フランコート氏も、成功者が成功したのは、長時間労働をしたからとは限らないと述べる。理論的には懸命に働けばすごいことを達成できるが、残念ながらほとんどの場合そうはならないとし、夢がかなった人の話ばかりが耳に入ってきているだけだと述べている(ポピュラー・サイエンス)。

 エコノミスト誌は、プロフェッショナルたちが一斉に労働時間削減に取り組まなくては、休暇を取る人が不利になるだけだとする。働く時間を選ぶことに各自の自由があるのは大切だし、個々のニーズや好みも違うだろう。しかしある程度は、人生には働くことより大切なものがあるかどうかを、社会として判断しなければならないとしている。

Text by 山川 真智子