本の話

© Yoshinobu Ayame

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 ニューヨークでは、2008年に始まった金融危機の影響で、大型書店やミュージックストアがバタバタと店を閉めた。危機的状況が収まると同時に、インディペンデントの小ぶりな本屋やアナログレコードを扱うショップが多数生まれた。それまで一般的だった店よりも周辺地域の住民の好みや嗜好に寄り添い、イベントを定期的に開催するなどしてコミュニティのハブとして機能するタイプの店だ――そういう話は、2014年に刊行した『ヒップな生活革命』以来、いろんなところで繰り返し書いてきた。

 「アメリカの消費文化の前線で、今、こういうことが起きている」という意図で書いた『ヒップな生活革命』が自分の想像以上に多くの人々の手に届いたことで、メディアからの取材を受けるようにもなった。

 本が出てすぐ受けた取材の中で、特に印象に残っている質問がひとつある。

「日本は消費カルチャーだから、このような『革命』は起きにくいのではないでしょうか?」

 そのとき、私は質問に対する答えを持たなかった。知らなかったのだ。

 どうなんでしょうねえ、と言いながら、少なくとも自分は消費カルチャーに疲れているし、うんざりしているなと思ったことだけを覚えている。

 本が出版されてしばらく経つと、地方都市の書店からトークイベントの誘いが舞い込むようになった。

 最初の招待は、大阪のスタンダードブックストア、福岡のブックスキューブリック、熊本の長崎書店から合同で同時にやってきた。日本国内を十分旅しないままアメリカに飛び出してしまった自分にとっては、うれしいオファーだった。

 初めての小さな「ブックツアー」なるものをやってみると、知らない場所を訪ねる方法として「イベントをやる」という行為はとても楽しいものだった。初めて会う店主を相手にトークしながら、来てくれるお客さんを観察する。質疑応答や二次会で、土地のコミュニティの話を聞いたり、行くべき場所を教えてもらったりする。土地の味を楽しみ、取材をする。イベントをするたびに、新たな出会いがあり、行きたい場所がさらに増えた。

 アメリカやニューヨークで起きている現象を観察して書いた自分の本が、そこから遠い離れた地方都市の人たちの手に取られて読まれる、ということ自体にいまひとつピンと来ないまま出た旅で、わかったことがいくつかあった。ひとつは、私の本をたくさん売ってくれた書店には、その客たちから圧倒的な信頼を寄せられる店主がいたということ。独自の視点と強いパーソナリティがあり、それぞれの土地で客たちと強固な関係性を持ち、コミュニティに本を介して人が集まることのできる場を提供しているのだった。彼らがいたからこそ、それまで本を出したことのない無名の自分の本を、自分の知らない土地の人が手に取ってくれたのだった。

 もうひとつは、本の登場人物たちと同じように、それぞれの土地、食や文化に関係した店をやっていたり、DIY的な活動やものづくりに従事している人たちが、実際に自分の本を手に取ってくれたのだということ。

Text by 佐久間 裕美子