イデオロギーや理念でなく、実利で動く中東政府

Khalil Hamra / AP Photo

 イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスの戦闘が始まり、早くも1ヶ月が経過した。この衝突の発端は、ハマスがイスラエル領内に向けて5000発ものロケット弾を発射したことだが、イスラエルによる報復措置は何倍、何十倍にもなっている。パレスチナ市民は北部から南部への移動を余儀なくされ、犠牲者は子供や女性を中心に1万人を超え、増加の一途を辿っている。そのような被害拡大の経過を観察し、筆者には「イデオロギーや理念で動かず、実利で動く中東」の姿が印象的に映る。

◆戦闘前も後も変わらない「イスラム同志」の姿勢
 今回、これまでにない規模のイスラエル攻撃に出たハマス側には、孤立するパレスチナへの危機感、イスラエルとサウジアラビアの国交正常化交渉への不満などがあったはずだ。ハマスにとっては、ハマス、パレスチナ人と同じイスラム教スンニ派の盟主サウジアラビアが、自らの敵であるイスラエルと国交正常化することは決してあってはならないことで、仮にそれが実現すればパレスチナの孤立はいっそう進むことになる。

 戦闘が激化して1ヶ月が経って何が見えるだろうか。イスラエル側の過剰な空爆により、世界各地ではイスラエルへの非難の声が広がっている。イスラム教国の間でも反イスラエル、パレスチナ支持の声が高まっている。サウジアラビアも今回の件でイスラエルとの国交正常化交渉を中断している。だが、簡単に言うと、それ以上のことは何もしていない。ハマスとしては今回の件で、もっと反イスラエル的な流れが強くなり、同じアラブ民族の国々がより積極的に動くという期待もあったはずだが、戦闘前も後も「イスラム同志」の姿勢は大きく変わっていない。口では言うが、行動が伴っていないといったところだろう。

 一方、親イランの武装勢力は反イスラエル、反米的な軍事行動を示しているが、イランはイスラエルをけん制する発言はするものの、それ以上の行動は取っていない。

Text by 本田英寿