子供を海外旅行に連れて行くべきではない? 「一貫性」が必要と英心理学者

NadyaEugene / shutterstock.com

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 もうすぐ待ちに待った夏休み。家族で海外旅行を計画されている人も多いのではないだろうか。ところが、まるで水を差すように、イギリスの著名な児童心理学者が「子供を海外旅行に連れて行くのは無駄」との見解を示し、波紋をよんでいる。その言い分を見てみよう。

◆子供に必要なのは「ホーム」
 テレグラフ紙に意見を寄せているのは、英国メディアでの露出も多い著名な児童心理学者、オリバー・ジェームズ博士。博士の見解によると、「小さい」子供に必要なものは「一貫性」のみであり、これが旅行にも当てはまるという。すなわち、毎年訪れて馴染み深い、ホームのような場所への旅が重要だというのだ。

 博士は自らの子供たちが幼かった最初の9年間、毎年コーンウォールのビーチを訪れ、その後はじめてフランスに行ったが、11歳と8歳の子供たちはまったく喜ばなかったという体験談を語る。翌年から、彼らが15歳と12歳になった今も、毎年夏にはふたたびコーンウォールを訪れているという。

 博士は、子供が新しいことを楽しめるようになるのはティーンになってからで、5歳
まではその準備ができておらず、また5歳から10歳にかけては場所への愛着を育む時期だと言う。さらに、めまぐるしい現代、何度も安心して再訪できるホリデーの場所が「ときに子供時代に根をおろす唯一の場所になりうる」と主張する。

◆新境地探索派からの批判も
 この意見には確かに一理あるかもしれない。しかしながら、博士の見解は基本的に自らの体験(自分の出身地コーンウォール、自分の子供たちの体験)のみに基づいており、コメント欄を見ると、科学的根拠がないという批判や、あるいは幼い頃の変化に富む旅の体験を貴重だと思っている親、そしてその子供たちからの反論が多い。

 また、「ホーム」の存在は何も休暇の地でなくてもよいのではないだろうかと思ってしまう。日常の生活で「安心して帰って来ることができる場所」を与えてやることのほうが大事なように思われるし、そんなにホームベースの休暇が大事ならステイケーション(stay とvacationを合わせた造語。休暇を自宅で過ごす意。不況やガソリン代高騰を受けてアメリカで流行った)で十分ということになる。

 トラベル&レジャー誌もテレグラフの同博士の意見について「両親は子供が大きくなるまで世界旅行を始めるのを待つこともできる。あるいは子供を家において自分たちだけで2度目のハネムーンに行くこともできる。またあるいは、世界旅行を続ける親にはいつも3つ目のオプションがある。自分たちの子供たちにこのルールは当てはまらないと望むことだ」としめくくり、やや茶化しぎみだ。

◆新しいことは脳に良い
 筆者の子供たちはカナダとドイツで幼少期を過ごし、日本に長期滞在し、その他各国を訪れた経験がある。子供たち自身、一度行った場所より見知らぬ場所に行くことを望むし、またそんな経験により、現在暮らしているドイツの保守的な中堅都市で育った子供たちに比べて寛容で豊かな世界観を身につけられたのではないかと筆者も思っている。

 こういった旅好きの資質が何歳くらいで身についたのだろうか、幼い頃から移動を繰り返してきたライフスタイルの影響だろうか、と考えてみたが、思えば、赤ん坊が見知らぬ場所で寝付けなくなる「場所見知り」のような現象は筆者の子供たちにはあまり見られなかった。ホテルに泊まるのは今も昔も大好きだ。要するに、その子の個性ではないだろうか。

 新しいことは脳に良いとの研究結果もすでに数多く出ている。たとえば、UCL (ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン)は、モチベーションと報酬の統制にかかわる中脳の一領域である腹側被蓋野は、馴染みある情報よりも新しい情報によく反応し、記憶や学習能力を飛躍的に向上させると発表している。

 大人でも、いつも同じ場所で休暇を過ごしたい人と、見知らぬ土地に行くのを好む人がいる。結局、子供の個性と親のライフスタイルに合うバケーションを過ごすのがいちばんなのではないだろうか。

Text by モーゲンスタン陽子