新国立競技場の新デザイン案、日本らしくて良い? 海外紙はハディド案とどちらを評価したか

 2020年東京オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとなる新国立競技場の新たなデザイン候補2案が、14日、日本スポーツ振興センター(JSC)のウェブサイトで公開された。どちらの案も、寺社など日本の伝統的な木造建築を想起させるかたちで木材を多用している。また、周辺の環境との調和を重視したデザインとなっている。廃案となったザハ・ハディド氏のデザインとは対照的な面が多いようだ。新デザイン案のアプローチについて、海外メディアでは賛否それぞれの意見が紹介されている。

◆「ハンバーガー」「重ねられたサラダ皿」「火の通っていない目玉焼き」
 新国立競技場の事業主体であるJSCは、公募に応じた2つのグループの計画案を公開した。最終決定前の公開は極めて異例だ。応募者の名は明かさず「A案」「B案」としている。朝日新聞によると、両案とも日本らしさを打ち出し、周辺環境と調和する「杜(もり)のスタジアム」というコンセプトを掲げている。

 A案では、屋根の大ひさしの下に、3層の軒ひさしが張り出している。それぞれの軒ひさしの上には植栽ユニットが並べられ、最上層には木を植えるスペースもある。横から見たイメージ図では緑が目立っている。周辺の緑との調和を志向したものである。また観客席を覆う屋根には木材と鉄骨を使用するが、下からは主に木材が目に入る設計になっている。「木と緑のスタジアム」というテーマがある。

 B案は、白磁の器のようなスタンドと屋根を、外部に露出した72本の木柱が支えている。柱は一本木ではなく集成材の角柱で、高さが約19メートル、面幅が1.3~1.5メートルある。横からのイメージ図では、この列柱が大きな存在感を見せている。また、屋根が波打っていることも特徴である。

 ガーディアン紙電子版の建築・デザインブログによると、ザハ・ハディド氏のデザインは、自転車用ヘルメットから「おまる」まで、あらゆるものになぞらえられていた。建築家の磯崎新氏は、修正後のデザインについて、「当初のダイナミズムがうせ、列島の水没を待つ亀のような鈍重な姿」と表現した。

 それでは、2つの新案は、何になぞらえられているだろうか。ガーディアン紙は、A案は、誰かが食べ終わらないうちに片づけられて重ねられたサラダの皿に見える、としている。重なった皿の間からレタスのかけらがはみ出している、と見立てた。

 B案については、上空からのイメージ図をもとに、十分火の通っていない目玉焼きに見える、とした。まっすぐでない白い屋根に、どろどろの卵白っぽい中央部がある、としている。

 サウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙(SCMP)はA案について、ハンバーガーを連想させるものだと評されている、と伝えた。

◆環境に溶け込むアプローチとしては理想的との評価
 いきさつから言って当然だが、新提案とハディド氏の旧案を対比する記述が海外メディアで多く見られる。ガーディアン紙は、新デザインのどちらも、ハディド氏のデザインより周囲の環境に溶け込みやすいものだという点を強調している。

 ハディド氏の未来的なデザインは、もし作られていたら、歴史ある神宮外苑でつやつや光る白い「ストーム・トルーパー」(映画『スター・ウォーズ』に登場する白い歩兵)のようにふんぞり返っていただろう、地域独特の建設の慣例を破り、東京に高価な持て余しものを残していただろう、と同紙は語る。

 ハディド氏の目くるめくビジョンの後では、新デザイン2案は、少し安物に見えるかもしれない。しかしどちらも、ハディド氏のデザインより著しくスリムで安価だ。それにそれらは、神宮外苑の緑地の背景によりふさわしいものとなる、より軽量級で控えめなアプローチの模範のように見える、と同紙は語っている。設計者とされる人物の名前を挙げて、彼らは東京の背景を理解している、と語っている。

 全般的に、同紙は、ハディド氏の旧案から新案への移行をプラスに評価しているようだ。木材を前面に出したデザインについても好意的に見ている。

 木材を採用して、日本の伝統的な建築を想起させるという狙いは、海外メディアにも十分に伝わっているようだ。SCMPはB案の木柱について、伝統的な日本建築で使用されている柱を思い起こさせる、と語っている。テレグラフ紙は、新デザイン2案には、寺院のようなタッチが見受けられる、と語っている。A案について、天然素材と形態の面で、伝統的な寺院の設計のなごりがあると語っている。

◆未来志向ではなく伝統回帰を図ったことに不満を持つ人も
 だが、新デザイン案のこうしたアプローチを評価せず、ハディド氏のデザインのほうが優れていたと見る人もいる。SCMPは、日本で20年近く建築家として活動しているイタリア系オーストラリア人のリカルド・トッサーニ氏のそうした見方を詳しく伝えている。

「ザハ・ハディド氏は言うなればひどい目に遭った。彼女のビジョンは日本の平凡なデザインに取って代わられた」「彼女は、あらゆる実用的な性質を備えた、非常に素晴らしいデザインを提案した――さらにいえば、そのデザインはこれらの妥協案よりはるかに優れている」と氏は語る。

 氏の批判は主にデザインの見地からなされているもので、新案がいわば伝統回帰するものであることに不満を抱いている様子だ。「ザハ・ハディド氏が提案したデザインは、21世紀に属するもので、22世紀に突入していくものだったが、この2案は19世紀に逆戻りしつつある20世紀のものだ」と語っている。

 ハディド氏のデザインは「非常に時間を超越し、わくわくさせ、ふさわしいものだと東京の建築家と住民が感じるような東京のあらゆる特質を捉えていた」と評価する一方、新案については、「政治家が日本固有のものだとみなすものについての、国家主義的な幼稚な見方に迎合している」とバッサリ切り捨てている。この批評には、氏の東京観が大きく影響していると思われる。

 トッサーニ氏は、新案が木材を使用していることについても懐疑的だ。特にこれほど大規模な建築物での木材の使用は「ばかげている」と語っている。その理由は、木材を安全に保つことを確実にするために、コンスタントなメンテナンスが求められ、しかも大きな費用がかかるからだという。公開されたB案の企画書によると、木柱の太陽光、風雨による劣化や、カビの発生を防ぐため、5年ごとの保護塗装を計画しているようだ。

◆人はオリンピックスタジアムに何を期待するか
  ガーディアン紙は、人々がオリンピックスタジアムに要求するものは多様であり、時に矛盾するものであることを語る。

 人々はオリンピックスタジアムに、息をのむほどに特徴的であること、テレビを通して開会式で世界中の観客を魅了できるような国の誇りとなることを期待する。それでも人々は、スタジアムは可能なかぎり背景への影響が少なく、特価で建設されなければならないと主張する。これらが両立することはまれだ、と同紙は語る。

 新デザイン案はハディド氏のデザインとは異なった方向を目指していると言えるだろう。朝日新聞は2案について、JSCが示した「周辺環境と調和し、我が国の気候、風土、伝統を現代的に表現する」という新競技場建設への考え方を反映していることを説明している。大野秀敏・東京大名誉教授は、毎日新聞で、「鳥瞰(ちょうかん)図を見て前より地味などの意見が出るかもしれないが、目線の高さで周囲の環境に溶け込んでいるかを議論していくべきだ」と語っている。

 新国立競技場のデザインは年内に最終決定される。

Text by 田所秀徳