朝日の慰安婦誤報、“日本の評判悪化に責任なし”と海外紙 産経は「国際的影響」強調

 朝日新聞の慰安婦報道を検証していた第三者委員会は22日、見解をまとめた報告書を公表した。同紙の慰安婦報道は、安倍晋三首相も名指しで批判するなど、国内では大きな議論を巻き起こした。

 海外紙と国内紙では、この問題に関する論点が異なり、見出しの方向性も全く違うものがみられた。

◆遅すぎた記事撤回
 山口県労務報告会下関支部で動員部長だったと名乗る故・吉田清治氏は、1943年、朝鮮・済州島で、韓国人女性を拉致し、日本軍相手の性的労働を強要した、と証言した。朝日新聞は吉田氏の証言をもとにした記事を掲載。しかし、この証言については、1990年代の初めに、専門家らが真偽は疑わしいとの見方を示していた。

 1993年、当時の内閣官房長官であった河野洋平氏が戦時中の従軍慰安婦に関し、謝罪する談話を発表した。朝日の誤った記事がこの流れを作ったとの非難もあるようだ。しかし、現存する公式な文書では政府による強制であったと証明できない。このため、保守派は、従軍慰安婦の日本政府の関与を否定する根拠としている、とワシントン・ポスト紙は報じている。

 朝日は8月、証言に関連した記事を撤回、最終的には誤りだったと謝罪を発表した。しかし、これは、右派メディアからの激しい非難を浴びた後、ようやくとった行動だった(ワシントン・ポスト紙)

◆朝日の責任は有りや無しや
 報告書に発表について、海外紙と国内紙の見出しを並べてみよう。

大手海外紙は、
英ガーディアン紙:性奴隷報道により日本のイメージが傷つけられたという証拠はない、と専門家
米ワシントン・ポスト紙:朝日に、日本非難の責任はない
ロイター:日本の日刊紙は、従軍慰安婦報道への批判を受け、改革を約束

一方国内紙は、
毎日新聞:朝日慰安婦検証:「自己弁護が目立つ」第三者委報告書
産経新聞:第三者委が「国際的影響」認める報告書
読売新聞:朝日の慰安婦報道「読者の信頼裏切る」第三者委 

比べてみると、報告書の内容をほぼ逆の意味に引用しているようだ。

◆メディアの自由を主張する海外紙
 ロイターは、朝日について、温和な毎日、保守的な読売や産経に対して、唯一リベラルな姿勢を持つ大手紙だ、と報じている。同時に、疑問が呈されている内容を修正、あるいは撤回せずに、記事としたのは、朝日の「重大な過ち」だった、と報告書の指摘を取り上げた。

 記事をめぐり、過激な右翼が朝日に閉鎖を求めたり、社員への脅迫を行ったりしたことを、海外各紙は危惧している。第三者委員会は、このような動きは、民主主義にとって脅威だと警告した。「悪質な嫌がらせや脅しがあり、朝日の社員の立場や同紙の販売が非常に難しいものとなっていることを改めて理解した」「このような卑劣な行為は、日本の民主主義を衰弱させる危険があると指摘したい」

 ロイターなどは、安倍首相が、朝日の誤った報道で、日本に対する国際的なイメージを損なったと批判したが、報告では、影響は限られたものだったとの結論が出たことを報じている。

◆非難の姿勢を変えない国内紙
 毎日新聞は、疑わしい記事の検証を怠った朝日の姿勢を批判しながらも、国際的な影響について、報告書の次の結論を報じた。(1)米国での強制連行というイメージ形成に大きな影響を及ぼした証拠は決定的でない(2)吉田氏の度々の紙面登場が国際的評判を広めたわけではない(3)朝日新聞の海外への影響は限定的

 産経新聞は、報告の前と後では、見解にあまり変化はないようだ。同紙は、朝日の行動は、「ジャーナリズムのあり方として非難されるべきだ」との委員会の言を取り上げた。また、「韓国における慰安婦問題の過激な言説を、朝日新聞やその他の日本メディアがエンドース(裏書き)し、韓国での批判を過激化させた」と指摘し、それを「「国際的影響」認める」とタイトルに含めて報じた。また、読売新聞もメディアとしての朝日の姿勢を批判している。国際社会への影響については、影響が大きかったとする見方と、影響は限定的だとする見方の両方の委員の意見が併記されている、と報じている。

Text by NewSphere 編集部