「逆オイルショック」、日本は勝ち組と海外報道 消費増税ダメージもカバーか

 原油価格の下落が驚くべきスピードで進んでいる。世界の原油需要に対し、供給が大きく上回っているためだ。ニューヨーク原油市場では、16日、原油取引の国際的な指標となるWTI先物価格が、6月の時点のおよそ半分になった。フィナンシャル・タイムズ紙は急速な下落について、「世界経済にとって、なんといっても今年最大の衝撃的事件」だと述べている。世界経済、そして日本経済にはどのような影響があるのだろうか。

◆日本経済への影響は?
 フィナンシャル・タイムズ紙(FT紙)は、世界各国への影響をさまざまに検討する中で、日本については、紛れもなく得をする国だと位置づけた。

 エネルギー資源に乏しい日本は、昨年10月から今年9月までの1年間に、28.4兆円を鉱物燃料の購入に充てている。これは同時期のGDPの5.1%に相当する。そしてそのうち9割以上が、原油および石油製品(燃料油)だという。従って、価格が1割下がることに、約2.6兆円のプラスということになる。3割低下すれば、そのプラス分で、今年4月の消費税率3%引き上げによって、税として徴収されることになった分を、相殺できる勘定になるという。

 ただしこの原油安、日銀にとっては、2%のインフレ目標の達成が困難になるかもしれず、痛しかゆしであるという。

 USAトゥデイ紙も、「原油価格急落で得をする国、損をする国」それぞれ4ヶ国を挙げる中で、得をする国の筆頭に日本を挙げた。長年にわたって支出に慎重になっている日本の消費者が、原油安で浮いた分、もっと支出をするよう励まされるかもしれない。原油安は、安倍首相の景気浮揚策の成功を助けるかもしれない、と語っている。

◆世界経済への影響は?
 FT紙は、原油安が世界経済に与える影響について詳しく論じている。これまでの歴史を見ると、原油価格の下落は、国際的に景気刺激として働くものだという。

 1986年、OPEC(石油輸出国機構)が生産制限に失敗し、原油価格はそれまでの半分以下になった。それが世界経済の急拡大の引き金となり、1988年には世界経済成長率は最大4.6%にまで達したという。また2008年には(リーマンショックによって)需要が世界的に低迷したために、原油価格は1バレル当たり133ドルから40ドルにまで急落した。この原油安は、2010年の経済成長のリバウンドに貢献したという。IMFによると、この年の世界経済成長率は5.0%だった。

 FT紙によると、IMFのクリスティーヌ・ラガルド専務理事は今月、「原油安は世界経済にとって好ましい状況だ」と述べたという。英シンクタンクのオックスフォード・エコノミクスは、原油価格が1バレル当たり20ドル下がるごとに、世界経済成長率が2年ないし3年以内に0.4%上積みされると推定しているという。

 原油安の恩恵を最も受けやすい国は、エネルギーを大量に消費すると同時に、石油輸入に大いに依存している国、新興国の石油輸入国であるという。最先進国も、(省エネルギーやエネルギー源の多様化により)GDPの中で石油に依存する度合いが新興国よりも低いため、利幅は減るだろうが、それでも大いに利益を得る、としている。

◆期待通りにいかないという懸念も
 ただしFT紙によると、今回については、これまでのようにうまく行かないのではないか、との声もエコノミストから上がっているという。現在、多くの先進国で、物価上昇率が低くなっている。そこに原油安が加わると、デフレになる懸念があるという。デフレ・スパイラルが生じれば、(日本が経験してきたように)経済は停滞する。1バレル当たり60ドルの原油価格で推移した場合、2015年、ヨーロッパの13ヶ国で、少なくとも一時的に物価上昇率がマイナスになると、オックスフォード・エコノミクスが予測しているという。

 また、現在、ドル高が急速に進んでいることも、原油安による需要押し上げ効果を弱めるかもしれない、としている。為替の影響により、アメリカ以外の国では、報じられているほどには、実際の購入価格は安くならないからだ。

◆直撃を受けるロシア。制裁解除を待望?
 USAトゥデイ紙では、原油価格低下により大きなダメージを受ける国の1つとして、ロシアを挙げている。

 ロシアの石油その他のエネルギーの輸出高は、年間およそ3000億ドル(約35.3 兆円)に上るという。国際エネルギー機関の推計によると、ロシアの外貨獲得の68%は石油輸出産業からであり、国庫収入の約5割が同産業からだという。

 ロシア経済は現在、欧米諸国がウクライナ問題をめぐって科した制裁によって揺らいでいる、と同紙は語る。ロシア政府の予測によると、来年のGDP成長率はマイナス0.8%となる見通しという。

 現在ロシアでは、ルーブルが通貨危機に見舞われている。ロシア国営のイタルタス通信は、日本の菅官房長官が定例記者会見で、ルーブルの下落を念頭に置いて、それにより世界の投資活動全般に縮小が生じることは、大いにありえると語ったと報じている。また、ロシアに対する制裁の解除をめぐっては、日本政府は金融市場と石油市場の状況を「熟慮」するつもりだ、と語ったと報じている。

 首相官邸が提供する記者会見の映像によると、菅長官は、記者から制裁解除の可能性を問われて、「現時点ではまず市場の動向を注視したい」と答えたにとどまる。イタルタス通信の翻訳では、日本政府がロシアの現状を鑑み、制裁解除の可能性も視野に入れているかのように読むことができてしまう。

Text by NewSphere 編集部