カナダはトランプ氏との貿易戦争に勝てるのか? 報復関税3兆円、世界が注目
カナダのカーニー首相(2025年4月)|Harrison Ha / Shutterstock.com
カナダ政府は8日、アメリカが新たに課した対カナダ関税への対抗措置として、約200億ドル(約3.1兆円)相当のアメリカ産品に関税を課し、ドナルド・トランプ大統領に反撃した。
この対立の行方はカナダをはるかに超えて影響を及ぼし、アメリカより規模の小さい同盟国がトランプ氏の経済的圧力に耐えられるのかを、各国政府に示すことになる可能性がある。
カナダのマーク・カーニー首相は、アメリカの要求によってカナダの主要産業が空洞化し、国としての自主性が制約される可能性があると述べている。一方、カナダの主権を脅かすトランプ氏の発言によって、国民はカーニー氏のもとに結集している。
カナダの歴史家ロバート・ボズウェル氏は、「カーニー氏とカナダは、トランプ氏への抵抗の象徴となっている」と語る。「トランプ氏が望んでいるのは、カーニー氏とカナダを見せしめにし、狙いとしては他のすべての国を震え上がらせることだろう。しかし実際には、そうした国々に、アメリカからさらに距離を置く必要があると示すことになる」
関税の対象となるのは、鉄鋼、アルミニウム、チーズ、家電製品、衣類、化粧品、農業機械など数百品目のアメリカ産品で、税率は15%、25%、50%となっている。
主なポイントを見ていこう。
◆カナダ、数百品目のアメリカ産品に報復関税
カナダ政府によると、今回の関税はアメリカ側の措置と金額でも税率でも同等だという。行政措置にあたる「枢密院令(order in council)」に基づき、8日午前0時1分に発効し、約200億ドル相当のアメリカ産品が対象となる。これは昨年アメリカがカナダに輸出した3336億ドル(約52兆円)の約6%に相当する。
カナダ・ロイヤル銀行の調査部門であるRBCエコノミクスは、この措置がアメリカ全体の経済成長を押し下げる可能性は低いものの、一部の企業には大きな打撃を与える可能性があると指摘した。
カナダはすでに、関税以外の措置にも踏み込んでいる。10州のうち8州が、アメリカ産酒類の販売を引き続き制限または禁止している。アメリカ蒸留酒協議会によると、こうした制限措置が導入されて以降、アメリカ産蒸留酒の対カナダ輸出は前年同期比で70%以上減少した。
◆トランプ氏、カナダへのさらなる圧力を示唆
8月21日にカナダとアメリカの貿易協議が決裂して以来、トランプ氏とその政権は、関税や脅しに加え、カナダを弱くアメリカ頼みの国と描く攻撃的な発言まで矢継ぎ早に繰り出している。
トランプ氏は7日、カナダのボンバルディアがアメリカ国内で航空機を製造しない限り、同社製航空機のアメリカでの販売を禁止すると警告した。
トランプ氏はトゥルース・ソーシャルに、「アメリカでのボンバルディアの販売はもう終わりだ! 彼らの製品は十分な水準にない!」と投稿。「我々の市場を望むなら、ここで製造しなければならない。アメリカを『貯金箱』のように扱うのをやめろ」と続けた。
カナダ自動車部品工業会(APMA)のフラビオ・ボルペ会長はXで、ボンバルディアはGEとハネウェルのアメリカ製ジェットエンジンを使用し、アメリカ国内で約3000人を雇用していると反論した。
トランプ氏は以前、カーニー氏が自分を「敵」として扱い続ければカナダ経済は崩壊しかねないと警告し、「カナダの政治家がこれまで経験したどんなことよりもひどい」事態になると脅していた。
アメリカ通商代表部のジェイミソン・グリア代表は、アメリカ政府が報復として一部のカナダ製品の輸入を全面的に禁止する可能性があると警告している。
トランプ氏はオンタリオ湖を「レイク・アメリカ(アメリカ湖)」と改称することさえしたが、カナダではこの変更は無視され、嘲笑の的となっている。グーグルとアップルはトランプ氏の圧力を受け、アメリカのユーザー向けに地図上の表記を変更した。7日には、トランプ氏が星条旗で覆われた北米の地図をソーシャルメディアに投稿した。
マギル大学の政治学者ダニエル・ベラン氏は、「湾と湖の名前を変えた次は、川の名前でも変えるつもりなのだろうか?」と述べた。
◆トランプ氏の圧力で強まるカナダの抵抗
トランプ氏による貿易戦争と、カナダをアメリカの第51州にするという度重なる発言は、カナダ国民の怒りをかき立て、カーニー氏への支持を強めている。カナダ人はアメリカへの旅行を大幅に減らし、アメリカ産品のボイコットも続けている。
現在の貿易戦争は、トランプ氏が政権に復帰した後、第1次政権時に自ら交渉し、繰り返し称賛していた北米の貿易協定があるにもかかわらず、カナダ産品に一連の関税を課したことから始まった。こうした関税の多くは同協定に違反している。
両国が長年にわたり世界で最も緊密な関係の一つを築いてきただけに、今回の亀裂は特に際立っている。両国の経済は深く統合され、防衛・安全保障面で緊密に協力し、幅広い文化的な結びつきもある。関係が悪化する前には、1日約40万人が国境を行き来していた。
カーニー氏は、アメリカ側が「ミームでふざけるのをやめ、嫌味を言うのをやめ、強がるのをやめて」真剣になれば、協議を再開できると述べている。
これまでのところ、トランプ氏の圧力はカナダでは裏目に出ており、譲歩を引き出すどころか、カーニー氏への支持を強める結果となっている。
トロント大学政治学名誉教授のネルソン・ワイズマン氏は、2024年のトランプ氏の再選によって、カナダ人のアメリカに対する不信感はさらに深まったと指摘する。それはアメリカ政府だけでなく、アメリカ人の判断力そのものに対する不信にも及んでいるという。
「たとえ対立が起きなくても、カナダとアメリカの関係がトランプ氏以前の状態に戻ることは二度とないだろう」とワイズマン氏は語った。
◆カーニー氏、トランプ氏に立ち向かう世界的な代弁者に
1月にダボスで開催された世界経済フォーラムで、カーニー氏は、大国が経済統合を利用して小国に圧力をかけていると警告した。この演説を機に、カーニー氏はトランプ氏への対抗策を模索する国々を代表する存在として、存在感を高めた。
トランプ氏は翌日、カナダは「アメリカのおかげで成り立っている」と反論し、「マーク、次に発言するときは、そのことを覚えておけ」と警告した。
カーニー氏は来週、欧州議会で演説する予定で、再び大きな舞台に立つことになる。
ベラン氏は、「カナダ国民はカーニー政権を支持しており、世界は今後の行方を見守っている」と述べた。カナダの毅然とした対応が成功すれば、トランプ政権の貿易政策に抵抗するための「モデルとして活用される可能性がある」という。
◆争点はカナダが工場を守れるかどうか
トランプ氏はまた、カナダが「従わない」場合、来年、カナダの自動車、自動車部品、鉄鋼に50%の関税を課すと警告している。北米の高度に統合されたサプライチェーンを前提とする産業にとって、壊滅的な打撃となりかねないさらなる関税引き上げだ。
「私たちは、デトロイトやサウスカロライナ、テネシー、そして自動車を生産している国内のあらゆる場所で車が作られることを望んでいる。カナダで作られることは望んでいない」とトランプ氏は語った。
自動車への50%関税は、カナダの工場に大きな打撃を与え、北米全体で車両価格を引き上げる可能性がある。部品や完成車は生産過程で何度も国境を越えるためだ。
カーニー氏は、アメリカ政府が示す条件によって、カナダの産業は「国内で徐々に縮小され、消滅させられる」ことになりかねないと述べている。
◆カナダは本当に勝てるのか?
カナダは不利な立場にある。アメリカの経済規模はカナダの約13倍で、カナダは輸出の70%以上をアメリカ向けに出している。
しかしベラン氏は、これは通常の貿易戦争ではないと指摘する。トランプ氏の国内での不人気や、近づく中間選挙、アメリカの関税をさらに覆す可能性のある訴訟などをその理由に挙げた。
「通常の状況であれば、カナダにとって勝算はかなり低いだろう」とベラン氏は語る。
ただ、アメリカ側にも弱みがある。アメリカの製油所はカナダからの日量400万バレルの石油に依存しており、アメリカの農家もカナダ産のカリ肥料に大きく依存している。ただしカナダ側はこれまでのところ、重要品目の輸出に課税や制限を設けるといった切り札の一部について、行使しない方針を示している。
カナダは、ある程度の経済的な勢いを持って今回の局面を迎えた。第2四半期の経済成長率は年率3.2%で、アメリカの1.5%の2倍以上だった。
メラニー・ジョリー産業相は、政府の意気込みを率直にこう語った。
「カナダがこの貿易戦争に勝てることを、世界に示すことができると確信している」
By ROB GILLIES Associated Press




