戦況停滞と国内不満 プーチン氏が戦争激化へ

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 ウクライナでの戦局の膠着(こうちゃく)状態とロシア国民の間に広がる戦争疲れに直面する中、ウラジーミル・プーチン大統領は、この紛争をめぐる構図を変えようとしているようだ。

 低迷する国内支持率の回復を図るとともに、5年目に入った戦争でロシアが優勢だと国内世論に印象付けるため、プーチン氏はウクライナの首都キーウに対する空爆を大幅に強化する可能性が高い。

 ロシアがキーウに対し「継続的かつ組織的」なミサイル攻撃を実施すると警告し、外国大使館に首都からの退避を呼びかけたことは、多大な犠牲や国際社会の反発を招く可能性があるにもかかわらず、攻撃を拡大する意図を示している。

 今月上旬に行われたロシア核戦力の大規模演習や、ウクライナによるドローン攻撃への関与を理由にキーウの欧州同盟国への報復を示唆するモスクワ発の相次ぐ強硬発言も、プーチン氏が圧力を強めようとしていることを裏付けている。

◆ロシアの進軍停滞でウクライナが長距離攻撃を強化
 昨年の一連の前進の後、1000キロを超える前線におけるロシア軍の進撃は最近ほぼ停止状態となり、ウクライナ軍は反撃に成功して一部の領土を奪還した。

 ワシントンに拠点を置く戦争研究所(ISW)は最近の分析で、「少なくとも現時点では、戦争の様相はウクライナ軍に有利な方向へ変化しつつある」と指摘した。「ロシア軍の前進速度が鈍化する一方、ウクライナ軍は陣地戦からの脱却を目指し、新たな戦術や作戦構想を採用している」

 戦場での膠着状態は、なおウクライナが支配する東部ドネツク州を早期に制圧するというプーチン氏が公言した目標を揺るがしている。ウクライナは停戦条件として同地域からの撤退を求めるプーチン氏の要求を拒否している。

 同時に、ウクライナはロシアのエネルギー施設や兵器工場への長距離攻撃を大幅に拡大し、被害を増大させている。

 プーチン氏はウクライナによるドローン攻撃を警戒し、毎年恒例の5月9日の戦勝記念パレードを縮小した。その数日後にはモスクワ郊外への大規模なドローン攻撃で3人が死亡した。厳重に防衛された首都であっても攻撃を完全には防げないことが示され、この戦争は一般のロシア人には無関係な遠い出来事だと印象付けようとするロシア政府の試みは打ち砕かれた。

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、こうした攻撃が「状況を大きく変えつつあり、より広く言えばロシアの戦争に対する世界の認識も変えつつある」と述べた。

 ウクライナによる後方深くへの攻撃の脅威が高まっていることを認め、ロシア議会は今週、銀行に対し、軍に頼るのではなく、自らの施設にドローン妨害システムを設置する費用を負担させる法案を可決した。

 ロンドンの王立防衛安全保障研究所(RUSI)のトーマス・ウィシントン氏は「ロシアの立場から見れば、こうした攻撃は今後さらに深刻化する一方だ」と述べた。そのうえで、ウクライナによる大胆さを増すドローン攻撃は「ロシアに政治的代償だけでなく経済的代償も負わせている」と指摘した。

◆戦争がロシア経済と士気に与える打撃
 大規模な軍事支出による当初の景気押し上げ効果が薄れる中、ロシア経済は停滞している。政府は財政赤字を抑制するため増税と国内借り入れの拡大に踏み切った。アメリカとイランの戦争によってロシアは思わぬ石油収入を得ているものの、根本的な経済課題は依然として残っている。

 プーチン氏は来週サンクトペテルブルクで開かれる国際経済フォーラムで、こうした負の要因を軽視する姿勢を示すとみられる。同フォーラムはロシアの成果をアピールする年次行事だ。

 ロンドンに本拠を置く国際戦略研究所(IISS)のナイジェル・グールド・デイヴィス氏は分析の中で、「戦争によって資本や労働力、物資の価格が高騰し、増税も進んだことで民間部門への圧迫が始まっている」と指摘した。その結果、「過熱する軍需生産と停滞する民間部門という二重経済」が生じているという。

 ロシアは比較的高い賃金や各種特典を提示して志願兵を集めてきたが、グールド・デイヴィス氏は「このインセンティブがもはや十分に機能していない兆候があり、ロシアは補充できる以上の兵力を失い始めている」と主張した。

 戦争を継続するためには、ロシア政府は人的・物的資源を強制的に動員せざるを得ず、そのためには「ソ連崩壊後に残された最後の市場の自由、労働の自由、移動の自由を制限する必要がある」と同氏は述べた。

 不満の高まりを示す兆候として、かつてロシア政府に忠実だった一部のSNSインフルエンサーが、公然と政府政策を批判し始めている。

 当局によるモバイルインターネットの制限や人気メッセージアプリの遮断は、数百万人の日常生活に混乱をもたらし、不満の声を招いている。著名なIT起業家でロシア政府の熱心な支持者として知られるナタリア・カスペルスカヤ氏は、こうした遮断措置やVPN(仮想プライベートネットワーク)の封鎖を厳しく批判し、テクノロジー分野に深刻な損害を与えると警告した。

 ロシア政府の政治を専門とするニュースレター『R.Politik』の創設者でロシア専門家のタチアナ・スタノワヤ氏は、ウクライナのドローン攻撃の拡大に加え、モバイルインターネットの遮断や増税がプーチン氏の求心力を低下させていると指摘した。政権を直ちに脅かす状況ではないものの、「プーチン氏の信頼性が徐々に失われつつあるのは事実だ」と述べた。

 今春初め、政府系調査機関を含むロシアの世論調査ではプーチン氏の支持率低下が確認された。ただ、国営調査機関が対面調査を取り入れるなど手法を変更した後に実施した5月の調査では支持率がわずかに上昇した。多くの識者は、異論に対する大規模な弾圧が続く中で、この数字は実態より高く出ている可能性があるとみている。

 カーネギー・ロシア・ユーラシア・センターのアレクサンドル・バウノフ氏は論評で「プーチンは魔法を失いつつある」と記した。「権力は依然として彼の手に集中しているが、その魅力は薄れつつある。体制支持者でさえ増え続ける制限や弾圧に不満を抱き、かつて強気だった実業家たちも今では落胆している」

◆ロシアがウクライナと西側諸国に新たな脅威
 ロシア政府は、5月22日にロシア占領下のウクライナ東部にある大学寮へのウクライナのドローン攻撃で21人が死亡したと発表した。プーチン氏はこれを受け、キーウと周辺地域への大規模なミサイル攻撃を命じた。24日にはロシアの新型極超音速ミサイル「オレシニク」を使用した攻撃で2人が死亡し、数十人が負傷、多くの建物が破壊または損傷した。

 25日、ロシア外務省はドローン製造施設や「意思決定の中枢」を標的として、キーウへの「継続的かつ組織的」な攻撃を開始すると発表した。また、外国外交官に首都から退避するよう求めたが、ウクライナの同盟国はこれを拒否した。

 ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相はアメリカのマルコ・ルビオ国務長官に電話をかけ、今後の攻撃について警告するとともに、自国外交官の退避を強く求めた。

 ルビオ国務長官は電話会談後、記者団に対し「こうした戦争が長期化した場合の危険は、常にエスカレーションし、新たな事態へと拡大する可能性を伴うことだ」と語った。

 イランでの戦争は事実上、ウクライナをめぐるアメリカの仲介努力を停滞させるとともに、アメリカのミサイル備蓄を減少させている。そのため、ウクライナがロシアの攻撃を防ぐため切実に必要としているアメリカ製パトリオットミサイルの供与も遅れている。

 モスクワを拠点とする軍事アナリストのセルゲイ・ポレタエフ氏は、ロシアはキーウの防空能力の不足を好機とみていると述べた。

 同氏は最近の論評で、「キーウの防空網は、大規模攻撃を効果的に実施できるほど消耗している」と指摘した。

 キーウへの大規模攻撃計画と歩調を合わせるように、ロシアはウクライナを支援する欧州諸国に対しても相次いで警告を発した。

 ロシア国防省は、ウクライナ向けのドローンやその部品の製造に関与しているとする欧州の施設一覧を公表した。また、ロシア対外情報庁はバルト三国に対し、自国領土からウクライナによる攻撃を認めれば、北大西洋条約機構(NATO)加盟国であってもロシアの報復から守られないと警告した。同盟国側はこうした主張を非難している。

 欧州安全保障協力機構(OSCE)のロシア代表ドミトリー・ポリャンスキー氏は、「われわれは実際、直接的な軍事衝突に非常に、非常に近づいている」と述べた。

Text by AP