中国がなぜイラン戦争の「勝者」とされるのか 3つの優位構造

空爆を受け、煙が立ち上るイランの首都テヘラン(3月2日)|Mohsen Ganji / AP Photo

 イラン戦争の勝者は誰か――。

 この問いに対し、米メディアを中心に、各国メディアの間で共通して浮上しているのが、「中国」という答えだ。ただし、その意味は単純ではない。

 各メディアの分析を横断すると、中国の優位は「軍事」「外交」「経済」という3つの構造に整理できる。

◆アメリカの消耗と「戦わずして学ぶ」優位(軍事)
 まず指摘されるのが、戦争に参加しないことで得られる軍事的優位だ。

 イラン戦争によってアメリカ軍は中東に戦力を振り向け、東アジアの抑止力は相対的に低下した。空母やミサイル防衛システムの一部はアジアから中東へ移され、韓国など同盟国からの装備転用も行われた。さらに、イランへの攻撃で消費されたミサイルの補充には長い時間を要するとみられている。

 こうした軍事的・政治的な負担を背景に、米外交誌フォーリン・アフェアーズは「この回避可能な戦争の真の勝者は北京だ」と指摘する。

 一方で、中国は戦場に立つことなく、アメリカ軍の兵器運用や意思決定のプロセスを観察できる立場にある。同誌は、中国がこの戦争を通じて米軍の運用に関する「膨大な情報を得た」とも分析している。

 戦わずして消耗を避けつつ、相手の戦い方を学ぶ――。この非対称性が、中国の第1の優位とされる。

◆「距離を取る」ことで得る外交的レバレッジ(外交)
 中国は、この戦争への関わり方でも独自の立場を取っている。

 米紙ニューヨーク・タイムズは、中国がイランへの圧力行使に消極的であり、紛争への関与を抑制する姿勢を維持していると報じる。

 それでも、アメリカが中東に足を取られる状況は、中国にとって外交的な機会となる。各国がワシントンへの不信を強める中、中国は「より予測可能で、より合理的で、より平和的なパートナー」としての立場を強調できるためだ。

 一方で同紙は、中国にとってもエネルギー輸入の不安定化など経済的なリスクがあると指摘しており、必ずしも一方的な利益ではないとする見方も示している。中国は停戦仲介においても直接的な責任を負うことを避けつつ、間接的な関与にとどめている可能性がある。

◆エネルギーショックがもたらす供給網と産業の再編(経済)
 戦争の影響は経済構造にも及んでいる。

 香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは、ホルムズ海峡を巡る混乱が東南アジアの供給網に打撃を与えていると報じる。エネルギー価格の高騰は、輸入依存度の高い国々の生産コストを押し上げ、供給網の不安定化を招いている。

 これに対し、中国はロシアなどからの資源調達や再生可能エネルギーの導入を進めてきたことで、相対的にショックへの耐性を持つとされる。こうした環境の変化は、生産拠点の再配置を促し、中国への回帰を後押しする可能性がある。

 さらに、中国分析メディア『ザ・ワイヤー・チャイナ』は、原油価格の上昇が電気自動車(EV)や再生可能エネルギーへの移行を加速させると指摘する。電池や関連部材で高いシェアを持つ中国企業は、この変化によって競争力を一段と強める可能性がある。

 エネルギー危機は短期的な混乱にとどまらず、供給網と産業構造の再編を通じて中国の優位を押し上げる要因となり得る。

◆戦争の外側で進む優位
 以上を整理すると、中国の優位は、アメリカの消耗、非関与による外交的立場、そしてエネルギーと供給網の再編という3つの構造に集約できる。

 イラン戦争は中国が主導したものではない。それでも、この紛争は結果として、中国に複数の領域で相対的な利益をもたらしている。

 戦争の勝者は必ずしも戦場にいるとは限らない。今回の戦争は、その典型例となる可能性がある。

Text by 切川鶴次郎