“中国製品を締め出す” ベトナムとの関税合意が示すトランプ政権の戦略

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 アメリカとベトナムが合意した貿易協定で、積み替え品には40%の関税が課されることが明らかになった。ベトナム製品に対する関税は当初の46%から20%に引き下げられたが、他国から単にベトナムを経由しただけの製品には、2倍の40%が適用される。トランプ政権はこの措置によって、中国製品の迂回輸出を防ぐ狙いがある。

◆中国の迂回輸出を阻止
 中国企業は長年、ベトナムを経由して関税を回避する手法を取ってきた。今回アメリカが導入する積み替え品への高関税は、こうした慣行に終止符を打つ狙いがある。米ニューヨーク・タイムズ紙によると、今回の合意では、ベトナムからの輸出品に対しては20%の関税が課される一方、積み替え品には40%という高率の関税が設定された。積み替え品とは、他国で製造され、ベトナムの港を単に経由しただけの商品を指す。

 同紙はまた、中国企業がベトナムや周辺国を経由してアメリカの関税を回避してきたと指摘している。ベトナムの香料会社の幹部、トラン・クアン氏は「中国の小規模業者の中には、ベトナムに持ち込んだ製品にラベルを貼り替えたうえでアメリカに輸出するケースが多い」と語っている。

 米ワシントン・ポスト紙によると、今年1月から5月にかけて中国からベトナムへの出荷は前年同期比で約19%増加した。アメリカが積み替え品に懲罰的な関税を課す背景には、こうした迂回輸出の急増がある。

◆東南アジア全体への圧力
 積み替え品を対象にした高関税は、ベトナムだけでなく中国にも衝撃を与えている。英フィナンシャル・タイムズ紙によると、中国商務省は3日、「アメリカとベトナムの貿易協定について評価を進めている」と表明したうえで、「中国の利益を損なうような取引には断固反対する」と強調した。また「そのような事態が生じた場合は、正当な権益を守るため断固たる対抗措置を取る」と警告した。

 ベトナム経済はアメリカ市場への依存度が高く、同紙によれば、輸出の約30%がアメリカ向けだという。ベトナムは中国と国境を接しており、近年は経済面での結びつきを強めてきた。特に電子機器産業では、中国資本の工場が多く、中国の部品やシステムに依存している実態がある。

◆ベトナムに悪影響か 実務上の課題も
 アメリカは新たな関税制度を発表したが、実務面では依然として大きな課題が残っている。ニューヨーク・タイムズ紙によると、積み替え品の定義や、中国製部品の使用許容量など、協定の詳細はまだ明らかにされていない。米靴流通小売業協会(FDRA)のマット・プリースト最高経営責任者は同紙の取材に対し、「規制が厳しすぎたり、遵守が困難だったりすれば、企業はベトナムでの調達を拡大しないだろう」と述べ、ベトナム経済への悪影響を懸念した。

 影響はタイにも及んでいる。フィナンシャル・タイムズ紙によると、タイ政府は積み替え品の取り締まり強化によって、対米輸出が150億ドル(約2.2兆円)減少する可能性があると見ている。これは昨年の対米貿易黒字の3分の1に相当し、タイ経済への打撃は深刻だ。

 アメリカが関税猶予の期限として設定した7月9日を前に、東南アジア各国は同様の協定の締結を急いでいる。

Text by 青葉やまと