イランが「極超音速ミサイル」使用か? 専門家の見解は
イラン・テヘランでの式典でファッターハ・ミサイルを見つめる女性たち(2023年6月)|Hossein Zohrevand / Tasnim News Agency via AP
イランは極超音速ミサイルを保有していると豪語し、すでにその最新兵器をイスラエルに向けて発射し始めたと主張している。しかし、イランが本当にそのミサイルを使用したという証拠はなく、専門家たちはその主張に懐疑的である。
とはいえ、この種の高速ミサイルが投入されれば、イスラエルの防衛システムにとって大きな試練となり、両国の戦闘の展開に影響を及ぼすかもしれない。以下では、この先進的な兵器について詳しく見ていく。
◆極超音速ミサイルとは何か、なぜ恐れられているのか?
イランの準軍事組織「革命防衛隊」は18日、イスラエルに向けて極超音速ミサイル「ファッターハ1」を発射したと主張した。ただし、これらのミサイルが本当に極超音速兵器に該当するかは議論の余地がある。
極めて単純に言えば、極超音速兵器とはマッハ5(音速の5倍)を超える速度で飛行するミサイルを指す。地球の大気圏外や高高度を飛ぶ弾道ミサイルは、この速度に達することが一般的である。
しかし現代の戦争においては、極超音速兵器には高度なナビゲーション機能も求められる。これにより、機動性が高まり、飛行中に進路を変えることができるようになる。こうした特性が、従来の防衛システムにとって大きな脅威になると、王立防衛安全保障研究所(RUSI)の上級研究員ジャック・ウォトリング氏は語る。
従来の弾道ミサイルは予測可能な弾道軌道を描くため、アメリカ製のパトリオットのような防衛システムでも迎撃が可能である。一方、地形をなぞるように飛ぶ巡航ミサイルや、低高度を飛ぶ極超音速ミサイルは飛行経路が予測しづらく、迎撃が難しい。
「レーダーは弾道ミサイルのような高い軌道を飛ぶものは地平線の上で捉えられる。しかし、極超音速滑空体の場合、低高度を飛ぶため、丘などの障害物がレーダーの視界を遮る」とウォトリング氏は言う。「そのため、ミサイルがレーダーの地平線を越えてから視認されるまでの時間が短くなり、迎撃の猶予がほとんどなくなる」
◆どの国が極超音速ミサイルを保有、開発しているのか?
専門家によれば、アメリカと中国が新世代の極超音速ミサイルを開発済みだが、いずれも実戦では使用されていない。ロシア、北朝鮮、パキスタンなども、極超音速に近いが技術的には劣るミサイルを試験・運用している。
ストックホルム国際平和研究所が2022年に発表した報告書は、「現在の使われ方においては、『極超音速』という言葉自体がほとんど意味をなさず、同時に技術開発競争や『乗り遅れたくない』という不安心理をあおっている」としている。
アメリカは極超音速ミサイルをステルス駆逐艦に搭載しようとしており、その他のプログラムも開発・試験中である。
中国は2017年に初の極超音速ミサイルを試験し、その後もさまざまなタイプを開発してきた。アメリカ国防総省は、中国の兵器がハワイ、アラスカ、さらにはアメリカ本土にも脅威を与えうると警告している。
ピート・ヘグセス国防長官は、中国が極超音速兵器を含む軍事技術に「巨額の投資」を行っていると強調している。
◆イランの能力はどの程度か?
ウォトリング氏によれば、ほとんどの国は、それほどの高速で生じる極端な温度や加速度のストレスに耐えられるミサイルを製造することができない。「これは非常に複雑な作業であり、イランにそれを製造する能力はない」と述べる。
イスラエルのシンクタンク「国家安全保障研究所(INSS)」の上級研究員で、かつてイスラエルの防衛産業に従事していた科学者でもあるイェホシュア・カリスキー氏によれば、イランがイスラエルに向けて発射しているミサイルの多くは極超音速に達するが、ほとんど機動性がなく、「真の」極超音速ミサイルとは見なされないという。
イランが発射した「ファッターハ1」ミサイルは、これまでのところ成果は乏しい。イスラエルによれば、イランは400発以上のミサイルを発射し、そのうち40発超が損害や死傷者をもたらした。
「イスラエルが95%以上のミサイルを迎撃できているのは、速度は決定的ではないからだ」とカリスキー氏は述べる。「重要なのはミサイルの機動性であり、今のところイランのミサイルの機動性は限定的だ」
同氏によれば、イランには「ホッラムシャフル」と「ファッターハ2」という、高速かつ機動性を備えたミサイルが2種類あり、これらは迎撃が「より困難」とされる。しかし、どちらもまだ実戦では使用されていない。
◆極超音速ミサイルはいつ・どこで使われたのか?
ロシアはウクライナとの戦争で極超音速ミサイルを使用したと主張しているが、専門家によれば、それらは高速ではあるものの機動性に欠け、「真の」極超音速兵器とは見なされていない。
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナで使用された「オレシュニク」ミサイルを「流星のように」音速の10倍で飛行し、いかなるミサイル防衛システムでも迎撃不能だと豪語していた。ウクライナ軍当局は、このミサイルはマッハ11に達したと述べている。
アメリカ国防総省は昨年12月、この「オレシュニク」は中距離弾道ミサイルの実験型だと発表している。
ロシアは「キンジャール」ミサイルも極超音速だと主張しているが、ウクライナはアメリカ製のパトリオット・ミサイル防衛システムでこれを迎撃することに成功している。
また、カシミールの領有権を巡るインドとパキスタンの最近の交戦では、パキスタンが戦闘機から発射した極超音速ミサイルによって、インドのパンジャブ州にあるロシア製のS400防空システムを破壊したと主張している。
現在、ブラジル、オーストラリア、イギリス、フランス、ドイツ、イラン、日本、韓国、北朝鮮が極超音速兵器の開発プログラムを有している。欧州連合(EU)も、防衛費を増額しロシアの脅威に備えるなかで、極超音速ミサイルに対抗する迎撃手段の開発を検討している。
By SAM McNEIL