示した「レアアース規制」の威力 揺るがない中国の戦略的優位
中国中部・江西省のレアアース鉱山(2010年12月)|Chinatopix via AP
中国がレアアースの輸出規制を戦略的に活用し、米中間の貿易摩擦においてアメリカから譲歩を引き出した。数か月間という短い供給制限は、圧力を与えながら供給国としての信頼性を保つ絶妙なアプローチだと評価されている。
◆中国が掌握した「ダモクレスの剣」
トランプ米大統領は11日、ロンドンでの貿易交渉で、中国はアメリカへのレアアース輸出を再開することで合意したと発表。その合意には中国の巧妙な仕掛けがある。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙(11日)によると、中国はアメリカの自動車メーカーや製造業者に対するレアアースの輸出許可に6か月の期限を設けた。これにより今後貿易摩擦が再燃した際に中国が交渉上の優位性を持つことになる。
また、中国は新たな許可制度のもと、生産するレアアースが最終的にどこで何に使われるかを詳細に把握可能になった。米ブルームバーグ(11日)の取材に応じた関係者は、この洞察力が今後何年にもわたり、「ダモクレスの剣」(一見して豊かな暮らしに生死の危険が迫っていることの例え)として、あらゆる交渉に影響を与えるだろうと語る。欧州に対しても、アメリカに対しても、必要とあらば痛みを与えることができるという無言のメッセージだ。
◆自動車からロボットまで幅広い産業に影響
中国がレアアース輸出を制限した影響は、広範囲かつ即座に現れた。米自動車大手フォード・モーターとスズキが一部生産を停止し、ドイツの自動車部品大手ZFフリードリヒスハーフェンもさらなる輸出許可がなければ生産停止の恐れがあると発表している。
なかでも注目を集めたのは、テスラのイーロン・マスク最高経営責任者の発言だった。ブルームバーグによると、4月の決算説明会で、同社のオプティマス・ロボットへの影響について問われた際、マスク氏は「オプティマスは中国からの磁石問題の影響を受けた。オプティマスのアームのアクチュエーターは永久磁石を使用しているからだ」と率直に認めた。
輸出手続きの複雑化も混乱に拍車をかけている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、中国の磁石輸出業者は、外国の顧客に対して最終用途の詳細な説明を求めるようになり、規制対象のレアアースを含まない磁石でさえ第三者機関での検査証明が必要になった。手続きの煩雑化が、実質的な輸出制限として機能している。
◆30年かけて市場を支配
中国は長年をかけ、レアアース市場の支配を進めてきた。アメリカ地質調査所の元レアアース専門家で、現在はアメリカクリティカル・マテリアルズの社長を務めるジム・ヘドリック氏は、ニューヨーク・タイムズ紙(11日)に対し、「中国は(アメリカに)30年先行してレアアース生産を行ってきた」と指摘する。アメリカが中国への依存から脱却するには、今すぐ本格的な取り組みを始めても最低5年はかかるというのが現実だ。
一方、今回の供給制限により、代替供給源の開発が促される可能性もある。オーストラリアン・ストラテジック・マテリアルズのローウェナ・スミス最高経営責任者(CEO)はブルームバーグに対し、「業界が経験している痛み、今日経験し、今後数か月で経験する痛みこそが、人々が実際に投資を始める動機となる」と語る。もっとも、ブルームバーグは、新たな供給網の構築には10年以上かかる見込みだとも指摘する。
幅広い産業で用いられるレアアースだけに、影響は絶大だ。