機体損失だけではない ロシア奥深くに突き刺さったドローン攻撃の衝撃

4日に撮影されたロシア・イルクーツク州のベラヤ空軍基地の様子|Maxar Technologies via AP

 ウクライナは1日に実施したロシア軍事基地への大規模ドローン攻撃で、ロシアの戦略爆撃機部隊に大きな打撃を与えた。ロシアが戦争を遂行する能力が大きく制限されたとの見方が出ている。

◆失われた爆撃機は二度と戻らない可能性
 ウクライナ側は「スパイダーウェブ作戦」として、ロシア国内に秘密裏に持ち込んだドローンをトラックから放ち、ロシア軍の戦略爆撃機など41機を破壊したと発表。破壊された航空機には、Tu95やTu22M3爆撃機、A50早期警戒管制機が含まれている。英フィナンシャル・タイムズ紙(3日)は、破壊された航空機がロシアの運用可能な長距離航空戦力の約20%を占めていたと報じた。

 オスロ大学の博士研究員ファビアン・ホフマン氏は、同紙に対し「これらの航空機は最も高いレベルで運用可能な部類であり、損失による打撃は非常に大きい」と述べている。

 元の状態への復帰は困難となる可能性がある。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙(2日)は、標的となったソ連時代のTu95およびTu22M3爆撃機はすでに生産が停止されており、失われた機体の補充は事実上不可能だと指摘している。

◆防戦を迫られるロシア、大規模攻撃能力は低下か
 ドローンを用いたウクライナの革新的戦術について、米ニューヨーク・タイムズ紙(2日)は高く評価している。国産ドローンの使用拡大に注力してきたウクライナは、今回の作戦でまったく新しいアプローチを採用した。同紙は、ウクライナが「その過程で、より強力な敵に立ち向かうほかの者たちも採用する可能性のある戦術書をまとめた」と指摘する。

 予想外の攻撃を受け、ロシアは防衛戦略の再検討を迫られている。フィナンシャル・タイムズ紙によると、今回の攻撃を受けてロシアは必然的に、残存している爆撃機をより広範囲に分散配置せざるを得ない。だが、そうした場合、攻撃態勢に不備が生じるとの観測がある。

 元北大西洋条約機構(NATO)軍備管理当局者で、現在はスティムソン・センターに所属するウィリアム・アルバーク氏は、同紙に対し「ロシアが保護のためにそれらをより分散させなければならない場合、それは大規模攻撃を実施してウクライナの防空を圧倒する能力を、直接的に低下させるだろう」と分析する。

◆「広大な国土」の安心感に揺らぎ
 ニューヨーク・タイムズ紙は、今回の攻撃はロシアの核三本柱(陸・海・空の核運搬手段)の一角に打撃を与えたと指摘。ロシアは伝統的に空中発射型の核兵器への依存度が最も低いとされるが、今回の攻撃を受け、ほかの運搬手段への依存が加速する可能性があると同紙は分析している。

 いずれにせよ今回の一件を受け、ロシアの脆弱性が露呈した。フィナンシャル・タイムズ紙によると、NATOのアルバーク氏は「ロシア人の間には、国の広大さが戦略的深度、つまり一種の聖域を提供するという感覚がある」と述べ、ウクライナ国境から距離のある地域のロシア国民には心理的な安心感があったと指摘。そのうえで、今回の攻撃はまさにそうした心理を揺るがすものであったと論じている。

 ロシア国土の奥深くでさえ安全な場所ではなくなった今、ロシア国民の戦争に対する感情にも変化が現れる可能性があるだろう。

Text by 青葉やまと