「トランプは貿易戦争で中国に負ける」英米メディアが分析するその理由

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 アメリカのトランプ政権が中国に145%の高関税を課す貿易戦争を仕掛けたが、中国は意外にも優位な立場にあるとの分析がある。時間的な余裕と地政学的影響力を武器に、中国はアメリカの圧力に屈しない姿勢を堅持している。

◆中国の耐久戦略
 貿易戦争の勝敗を分ける最大の鍵は「時間」だ。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)のコラムニストは、中国が優位に立てる理由として、習近平国家主席がアメリカと異なり、選挙という圧力を受けることがない点を挙げる。中国共産党は政治統制の仕組みを整えてきたため、少なくともアメリカ中間選挙までは貿易紛争に耐えられると同紙はいう。

 一方のトランプ政権は、時間との戦いを強いられている。インフレ抑制を期待してトランプ氏に投票したアメリカ国民だったが、貿易上の対立で物価上昇が進んだことで現状に不満を募らせている、と同紙は指摘する。

 中国側も長期戦を見据える。英エコノミスト誌(1日)によると、毛沢東の1938年の著作『持久戦論』を引用した中国国営メディアの北京日報は、米中間の貿易戦争を「長期戦」と位置づけ、中国国民に忍耐と勝利への自信を呼びかけた。

◆日本も中間財の19%を輸入
 中国の強みはまた、世界経済の中核を担うその地位にもある。エコノミスト誌によると、中国は100ヶ国以上にとって最大貿易相手であり、アジア地域のサプライチェーンに不可欠な存在だ。2022年には日本の中間財輸入の19%以上、韓国では3分の1以上、ベトナムでは38%以上を中国が占め、これらの国々が中国を排除することは事実上不可能だと記事は述べる。

 また、中国には財政上の余力があり、経済的打撃をある程度吸収できる。WSJによれば、中国は債務を活用した財政支援や信用拡大で企業倒産を防ぎ、公共事業に資金を投入できる体制を整えている。貿易戦争が長引けば追加の刺激策は避けられないが、こうした政策が近年の中国経済を支える柱として機能している。

◆アメリカと中国で異なる打撃の性質
 皮肉にも、トランプ政権の通商政策は自国経済を蝕んでいるとの見方が濃厚だ。エコノミスト誌は、アメリカ経済に最大の打撃を与えているのが、アメリカ自身が課した関税だと指摘。中国製品の値上がりは米消費者の財布を直撃し、中国製部品に頼るアメリカ企業を窮地に追い込むリスクが高まっている。

 国際社会での信用失墜もアメリカにとって手痛い。英フィナンシャル・タイムズ紙のコラムニストは、「交渉優先」の姿勢で同盟国からの信頼を失い、対中包囲網の形成に支障をきたしていると分析する。常に自国に都合の良い条件を求めるアメリカに、将来を委ねる国はないという。

 さらに、経済への打撃の性質が両国で異なる。同紙は、中国にとって貿易戦争は輸出品の需要が一時的に減る「需要ショック」であるのに対し、アメリカにとっては輸入品の供給が減る「供給ショック」だと指摘する。代わりの買い手(需要)を見つけるのは、代わりの供給元を見つけるより簡単なため、この点でも中国が有利だという。

 アメリカが仕掛けた貿易戦争は、アメリカ自身に不利な方向に運んでいると複数の英米メディアは分析している。

Text by 青葉やまと