「米が手を引いたら…」帯びる現実味 欧州はウクライナを支えられるか

Ukrainian Presidential Press Office via AP

 トランプ米政権の方針により、アメリカがウクライナ和平交渉から撤退する可能性が高まっている。欧州諸国はアメリカ抜きでもウクライナ支援を継続する姿勢を示しているが、軍事支援の穴埋めには課題が残る。

◆アメリカ、和平交渉から離脱の兆候
 ウクライナ和平交渉からのアメリカの離脱が現実味を帯びてきている。米ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は先月、アメリカのトランプ大統領とバンス副大統領が、先月23日に欧州側に提示した提案を「最後通牒」と位置づけ、アメリカが「交渉から撤退する準備を整えている」と報じた。ルビオ国務長官も「進展がなければ仲介役から退く」と繰り返し明言している。

 アメリカ案はロシアに有利な内容で、クリミア併合の承認も含まれている。提案は欧州とロシアの双方から拒否された。英フィナンシャル・タイムズ紙(4月30日、FT)によれば、ロシアのプーチン大統領はアメリカ案を退け、ロシアが主張する4地域の全面支配を要求している。

◆欧州諸国の対応は
 アメリカの方針転換を見据え、欧州は独自の戦略を練り始めている。NYTによると、ポーランド、ドイツ、フランス、イギリス、北欧・バルト諸国など欧州主要国は、ウクライナの安全を自国の防衛と不可分の優先事項と捉え、支援を継続する構えだ。

 決意は各国指導者の発言にも表れている。同紙によると、ポーランドのシコルスキ外相は、「欧州はこの紛争の本質を理解し、ウクライナ政府への支援を続ける。ポーランドは必ずそうするし、我々だけではない」と語った。

 FTによれば、欧州連合(EU)の外相にあたるカラス外交安全保障上級代表が、トランプ政権が和平協議から撤退しモスクワとの関係修復に動いた場合に備えた「代替案」として、対ロシア経済制裁を維持する用意があると明かした。

◆財政面よりも武器供与に課題
 欧州がアメリカ抜きのウクライナ支援に舵を切る一方、現実問題としてアメリカの存在なしには難題が残る。英タイムズ紙(4月30日)によると、アメリカはこれまでに650億ドル(約9兆4000億円)相当の武器・弾薬を提供しており、ウクライナへの軍事支援全体のほぼ半分を占める。

 一部の専門家は、欧州が取り得る次善策の可能性に触れている。ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)代表団のボブロフスカ副団長はタイムズ紙に、「欧州の支援拡大と国内生産の強化により、アメリカが供給していた弾薬の不足を補える」との考えを示した。ただし、「アメリカが防空支援から手を引けば極めて厳しい状況になる」との危機感も露わにしている。

 懸念を抱くのはEU側も同じだ。FTによれば、カラス氏は「欧州は財政面でウクライナを支えられるが、軍事支援ではアメリカが離脱した場合、その穴を埋めるのはより難しくなる」と語った。

 武器・弾薬供与のおよそ半分を担っていたアメリカが離脱すれば、兵器面での状況が途端に悪化するおそれがあると見られている。

Text by 青葉やまと