独次期首相、ウクライナ切望の巡航ミサイル「タウルス」供与を示唆
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ドイツで5月にも発足する次期政権で、首相就任が見込まれているメルツ氏が、ウクライナへの「タウルス」長距離ミサイルの提供に意欲を見せている。メルツ氏は欧州同盟国との足並みをそろえることを条件に挙げるが、ロシアは強く反発している。
◆メルツ氏「同盟国と協調して供与」
ドイツの次期首相に就任予定の、キリスト教民主同盟(CDU)党首のメルツ氏が13日、ウクライナが長らく求めてきたタウルス長距離ミサイルを提供する考えを明らかにした。
英フィナンシャル・タイムズ紙(13日)によれば、欧州の同盟国と足並みをそろえることを重視するメルツ氏は「イギリスもフランスも、そしてアメリカもすでに巡航ミサイルを送っている」と述べたうえで、「この件は共同で決断すべき問題だ。合意が取れれば、ドイツも参加すべきだ」と独公共放送ARDに対し述べた。
メルツ氏の発言はウクライナ北東部スーミへのロシア軍による攻撃を受けてのものだ。メルツ氏はこの攻撃を「重大な戦争犯罪」と厳しく非難し、ウクライナが戦況で優位に立つには「攻勢に出る」ための支援が不可欠だと強調した。
メルツ氏はこの際、ミサイル供与に前向きな姿勢を示しただけでなく、ロシア本土とクリミアを結ぶクリミア橋のような標的への使用も示唆している。
メルツ氏の発言に関して、イギリスの外交政策に関わる同国政府関係者が16日、英テレグラフ紙(16日)に対し、イギリスは以前からドイツがウクライナにタウルスミサイルを提供することを支持しており、新首相がその決断を下すのであれば、その動きを支持すると述べた。
◆タウルスの戦略的重要性とその性能
タウルスはウクライナからロシア領内の標的まで届く高性能巡航ミサイルだ。このためテレグラフ紙は、ウクライナ側がタウルスを手に入れれば、戦況を一変させる「ゲームチェンジャー」となる可能性があると指摘する。
タウルスの射程は500キロを超え、イギリス製ストームシャドウ、フランス製スカルプ、そしてアメリカが提供する戦術ミサイルシステムよりも長い。また、高度な知能型弾頭を搭載し、橋や地下施設などの頑強な構造物を破壊する能力を持つ。ドイツの国際公共放送ドイチェ・ウェレ(DW、17日)によると、タウルスKEPD-350は時速1170キロ(マッハ0.95相当)で飛行する。
テレグラフ紙はタウルスが2005年以降実戦で使われてきたと伝えている。1発あたりの価格は約88万2000ポンド(約1億6600万円)だ。全長5.1メートル、翼幅2メートルの機体に、ウィリアムズWJ38-15ターボファン・ターボジェットエンジンを搭載している。
◆ロシアは「直接的関与」と警告
ロシア外務省はドイツに対し、ウクライナへのタウルスミサイル提供をめぐって警告した。DWによれば、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、ロシアの「重要な輸送インフラ」に対してタウルスミサイルによる攻撃が行われた場合、ウクライナ紛争へのドイツの「直接的な」関与とみなすと強調した。
一方、ドイツ国内では、次期政権でキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と連立を組む見通しの社会民主党(SPD)がタウルス提供に難色を示している。DWによると、SPDのマティアス・ミアシュ氏は独テレビ局n-tvに出演し「我々は紛争の当事者になるつもりはない」と断言。タウルス提供への反対姿勢を鮮明にした。
国内外から反発はあるものの、欧州と足並みを揃える動きは加速しそうだ。