「トランプに戦略なし?」ブレブレ・意図不明の関税政策、米メディア困惑

Evan Vucci / AP Photo

 トランプ米政権が打ち出した大規模な関税措置に、世界経済が振り回されている。アメリカは中国向けの関税率を145%まで跳ね上げる一方で、一部の国々への課税を90日間停止する方針転換に出た。トランプ政権に果たして明確な最終目標はあるのか、疑念が深まっている。

◆混乱を招くトランプの関税政策
 中米間で明らかな貿易戦争が始まった。トランプ政権が中国向け関税を145%まで引き上げる方針を明らかにすると、中国の習近平国家主席はアメリカ製品への125%の報復関税で対抗した。激化するアメリカとの貿易戦争について、中国の習近平国家主席は「中国は恐れない」と述べた。

 トランプ大統領が突如9日に他国への関税適用を90日間停止した後、金融市場は混乱に陥った。9日には安堵感から株式市場が反発したが、その翌日には再び下落。

 こうした一連の動きについてトランプ政権幹部は「計画通り」と主張する一方で、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)や米ワシントン・ポスト紙は、実際には行き当たりばったりの政策決定が続いていると批判的に報じる。関税によりiPhoneが700ドル(約10万円)以上値上がりする可能性があると判明すると、電子機器やコンピューターへの関税を突然撤回する(さらにその後、分野別の課税対象となることを発表)など、場当たり的な対応が目立つ。

◆不透明な対中戦略
 WSJは社説を通じ、トランプ政権の対中戦略が見えづらいとの批判を展開している。145%もの高関税は米中経済の完全なデカップリング(分離)を意図しているように思える、と記事は指摘する。

 一方で、トランプ氏は9日の会見で中国との貿易協定に前向きな姿勢を示し、関税については習近平氏を交渉の場に引き出すための手法だと説明した。同紙は、こうした一貫性のない対応が市場を混乱させていると批判している。

 記事はほかにも矛盾の具体例として、中国系企業バイトダンスが保有するティックトック株の売却期限を75日間延ばした事例を挙げている。

◆同盟国との関係悪化で孤立するアメリカ
 世界戦略も不透明だ。CNNによると、トランプ政権のベセント財務長官は、日本や韓国、インド、ベトナムといった同盟国との貿易交渉を通じ、中国を「包囲網」で取り囲む戦略を打ち出している。

 一方、トランプ氏がカナダやメキシコだけでなく、日本(24%)、韓国(25%)、EU(20%)などの同盟国にも高率の関税をかけ、外交関係が悪化している。

 こうしたことから、新しく就任したカナダのカーニー首相は、アメリカとの従来の関係はもう終わったと釘を刺している。

 本来、対中国の包囲網を確立したいのであれば、各国とは協力関係を構築すべきだ。だが、相次ぐ追加関税の発表で、各国首脳からの信頼を失っている。トランプ政権の関税政策に明確なロードマップは存在するのか、疑念が深まっている。

Text by 青葉やまと