トランプ氏が操る2つの「関税」 混乱する世界

Reba Saldanha / AP Photo

 アメリカで1月20日、第2次トランプ政権が発足。トランプ氏は「MAGA(アメリカを再び偉大に)」を達成するため、諸外国から最大限の譲歩や利益を引き出すと同時に、外国の紛争などのアメリカへの影響を最小限に抑え、アメリカの政治的安定と経済的繁栄を追求する。これを実行していくにあたり、関税を最大の武器としてフル活用していくだろう。現在、トランプ関税への懸念が世界中に広がっているが、今こそ「トランプ関税」の2つの側面を冷静に認識する必要があるだろう。

◆実際に発動される関税
 トランプ関税の1つが、実際に発動される関税だ。トランプ氏は1期目の2018年以降、対中貿易赤字を減らす是正する目的で、計3700億ドル分の中国製品に対して最大25%の追加関税を課す制裁措置を4回にわたって発動。中国も農産物や液化天然ガスなどのアメリカ製品に対する報復関税を次々に打ち出し、「貿易戦争」と呼ばれる事態となった。これが多くのメディアが現在大々的に報じている関税であり、企業や消費者に具体的な影響を与える関税である。

◆脅して譲歩を引き出す手段としての関税
 そして、もう1つが相手を脅して譲歩を引き出す手段としての関税である。トランプ氏はMAGAを達成するため、諸外国から最大限の譲歩や利益を引き出そうとするが、そのための手段がこの関税である。このケースは多々ある。たとえば、1期目のトランプ政権では、日本製の自動車、自動車部品への追加関税をちらつかせた際、日本側は牛肉や豚肉などアメリカ産農産物への関税を引き下げることを発表。トランプ関税を回避したことがある。この際のトランプ関税は、相手国の譲歩を引き出す役割を担ったことになる。

 また、直近ではコロンビアへの「関税25%」の脅しが挙げられる。トランプ氏は1月、強制送還する移民を乗せたアメリカ軍機の着陸を拒否したとして、コロンビアに25%の関税を課すと発表。その後、コロンビア政府が協力姿勢に転じたことで、関税案を撤回した。これも譲歩を引き出す手段としての関税のケースと言えよう。

 さらに、トランプ氏は昨年の選挙戦の最中、中国からの輸入品に対して一律60%、その他の国からの輸入品に10〜20%の関税を課すと公約。メキシコからの輸入車には200%以上の関税を課すと示唆した。そして今月1日、カナダとメキシコからの輸入品に25%、中国に10%の追加関税を課す大統領令に署名した。要は、60%や200%という数字は実際に発動される関税ではなく、相手国から譲歩を引き出したわけではないが、相手国を牽制(けんせい)する脅しとして機能したことになるだう。

 現在、上述の追加関税で世界中が混乱しているが、これらは実際に発動される関税になるのか、もしくは脅しとしての関税になるのかの境目にある。今後もトランプ氏は、その2つの関税を巧みに操りながら諸外国にディールを迫っていくだろう。

Text by 和田大樹