米供与「M1エイブラムス」戦車、なぜ苦戦しているのか? ウクライナ兵悩ませる数々の問題

「M1エイブラムス」戦車(コロラドスプリングス、2016年11月)|Christian Murdock / The Gazette via AP

 アメリカは昨年から、米軍主力戦車「エイブラムス」をウクライナに供与している。戦闘能力、兵士の生存率、機動力の高さから対ロシアでも活躍が期待されたが、現実の戦場ではいくつかの課題に直面しているようだ。特に、ドローン攻撃に対する脆弱性がウクライナの兵士たちを悩ませている。

◆ウクライナ版に加えられた変更とは
 アメリカのバイデン政権は昨年1月にエイブラムスの供与を発表し、昨年9月からウクライナに実物が到着している。ウクライナ版では、従来のエイブラムスからいくつかの変更が加えられている。

 はじめに、通常のウラン装甲ではなく、1960年代にイギリスで開発された複合セラミックと鋼鉄の保護材であるチョバム装甲を使用している。英テレグラフ紙は、ウラン装甲がロシアの手に渡ることを懸念しての措置だと指摘する。

 また、アメリカ標準のM19エイブラムス爆破反応装甲(ARAT)に加え、ソ連で設計されたコンタクト1爆発反応装甲(ERA)タイルが追加されている。米ウォー・ゾーン誌は、これにより、対戦車ミサイルやロケット推進手榴弾(RPG)などの攻撃に対する防御力が向上していると評価する。

 加えて、ウクライナ版ではさらに、ドローン対策として、ウクライナのメトインヴェスト社製の金網「コープケージ」が一部車両に装着された。ターレット(回転式砲塔)の側面四方をぐるりと囲むように装備され、爆発物を搭載したドローンが砲塔本体に直接到達することを阻む。

◆設計時はドローン攻撃が念頭になかった
 だが、エイブラムスにまつわる問題が多く聞かれるようになった。ウクライナに供与されたM1エイブラムス戦車は、ドローンによる攻撃に対して脆弱であり、戦場での生存性が低いと米CNNが指摘している。ウクライナの戦車クルーからは、ドローン攻撃が戦車の装甲を貫通し、乗員が負傷する事例が報告されているという。

 テレグラフ紙によると、エイブラムスはもともと、航空部隊や砲兵の支援を受けながら進軍することを前提に設計された。しかし、ウクライナ軍の戦車部隊はそのような支援を十分に受けられない状況にある。そのため、戦車が単独で行動する際、ドローン攻撃に対して非常に脆弱となる。対ドローンのコープケージを導入してなお、ドローン攻撃の脅威は大きい。

◆エンジンが故障し、電子機器はショート
 さらに、ウクライナに供与されたM1エイブラムスは、エンジンや電子機器に関する技術的な問題を抱えている。エンジンの故障が頻発しており、戦車がほとんど動けなくなることがある模様だ。CNNは、これにより戦場での機動力が大幅に制限され、戦車の運用に支障をきたしていると報じる。

 また、テレグラフ紙によると、雨や霧などの悪天候時には、内部の電子機器が結露によってショートすることがあるという。戦車の操作や通信に重大な影響を与え、戦闘能力が低下するばかりでなく、戦場での生存率を下げていると同紙は報じる。

 ウクライナの戦車クルーは、こうした技術的な問題に対処するため、独自に戦車の修理や改良を試みている。だが、ワー・ゾーン誌は、依然として多くの課題が残っていると指摘する。ドローン対策に加え、エンジンの信頼性や電子機器の耐久性向上が急務となっている。

Text by 青葉やまと