パキスタンから帰国を強いられるアフガン人、母国で待ち受ける苦境

Ebrahim Noroozi / AP Photo

 パキスタン当局による逮捕や強制送還を回避するため、アフガニスタン人がパキスタンから逃れている。国境を越えた先ではシェルターや食料、飲料水、トイレが不足するなかで野宿を強いられているとする支援機関による報告が5日、発表された。

 この数週の間に、何十万人ものアフガニスタン人がパキスタンから出国している。パキスタン当局は不法滞在であると判断した外国人に対し、滞在許可証の確認を行うため1軒ずつ訪問して回っている。政府は出国期限を10月31日とし、それ以降は新たに制定した移民に対する取り締まり措置の一環として逮捕に踏み出す方針だ。

 パキスタンからアフガニスタンへは、主にトールハムとチャマンの2ヶ所の検問所を通って出国する。国境反対側には、出国した人々が出身地へ移送されるまでの間の滞在先としてタリバンが設置した仮設キャンプがある。

 支援機関によると、トールハムには然るべきシェルターがないという。飲料水を十分に得ることができないうえに、暖を取るための熱源も焚火以外にはなく、照明もない。さらに、トイレがないために屋外で排せつすることを余儀なくされており、衛生的な環境が整っていない。国連機関をはじめとする支援団体は、日々アフガニスタンに入国してくる何千人もの人々とともに施設を設営しているところだ。

 パキスタン北西部に位置するペシャーワルで17年間暮らしたカヤル・モハマド氏には、5人の子供がいる。同氏はアフガニスタンとの国境へ送還されてきた。家財道具を持っていくことは一切許可されなかったため、所有していたものはすべてパキスタンに残されたままである。

 7歳の娘のハワは、寒さに耐えきれず涙を流す。朝食にはペットボトルを切り取って容器にしたものを使って紅茶を飲み、毛布なしで眠る。

 父親であるモハマド氏は「タリバン政府に期待することはできません。まだ政府として承認されておらず、何の力もないのです。何も持たず、土地もなく、住む所もない家族がここにいます。屋根のない場所にただ暮らしています。助ける人は誰もいません」と支援を求めて国際社会に強く訴えている。

 緊急人道支援と開発援助を行う団体、ワールド・ビジョン・インターナショナルのタミンドリ・ダ・シルバ氏によると、一時滞在施設での新規登録と手続きを終えた人々は、その多くが河川敷に移送されるという。パキスタン国境で時計や宝石、現金は没収されるため、人々は着の身着のままでアフガニスタンへ戻っていく。

 セーブ・ザ・チルドレンのカントリー・ディレクターを務めるアーシャド・マリク氏は「多くの人が教育に関する書類を持たないまま自国へ戻るため、教育を継続させることがなかなかできない」と話す。さらに、彼らの多くはパキスタンではウルドゥー語や英語で学んでいたため、アフガニスタンの言葉であるダリー語やパシュトー語にはあまり慣れていない。

 同氏はまた、帰国する家族の多くがパキスタンに滞在する移民のなかでも最貧困層であったことに触れ、貧困を理由に、アフガニスタンでの児童労働や密輸取引への子供の関与が増加する恐れがあると警鐘を鳴らす。

 タリバンは食料や水、毛布を配布し、アフガニスタン人を「24時間体制で」援助するための委員会を組織していると公言している。

 フランシスコ教皇は5日、バチカンから声明を発表し、「パキスタンで安全な場所を見つけたアフガニスタン難民が、今では行き場所を失っている」状況を非難した。

 タリバン勢力が率いる現政権が国際社会から孤立していることも相まって、アフガニスタンは多くの問題を抱え苦境に陥っている。長年にわたる干ばつや疲弊した経済、数十年続いた戦争の余波による影響で、数百万人ものアフガニスタン人が国内難民と化している。

 パキスタンからの出国を強いられている人々を支援することも受け入れることもできないほど疲弊しきったアフガニスタンに対し、人道援助を行う組織の間には不安が募っている。

Translated by Mana Ishizuki

Text by AP