米主力戦車「エイブラムス」はウクライナで威力を発揮できるのか? 懸念される「兵站の悪夢」

「M1エイブラムス」戦車(コロラドスプリングス、2016年11月)|Christian Murdock / The Gazette via AP

◆アメリカが供与に消極的だった理由とは
 これまで米国防総省は、ウクライナへのエイブラムス供与に消極的だった。同戦車が抱える課題を憂慮してのことだ。NBC CTは、エイブラムスは燃費が悪く、1キロ進むのに少なくとも4.7リットルの燃料を消費すると指摘する。このため、常に燃料補給車が後方を追従する必要がある。エイブラムス自体は悪路走行性能に優れるが、補給車はそうでないことが多い。NBC CTは米国防総省が、エイブラムスがウクライナ軍の足手まといになることを憂慮したのではないかと分析している。

 また、兵站ルートと適切なメンテナンスを確保できなければ、エイブラムスは無用の長物となる。WSJ紙によると、仮に1個大隊に58両の戦車を導入した場合、数十台の支援車両と数百人の兵士が必要となる。戦車を導入すれば故障に備えた牽引車両が必要となり、牽引車両はまた燃料やスペアパーツを必要とする。1両の戦車を支えるためにかかる負荷は多大だ。こうした支援なしには、戦車は戦場でせいぜい2〜3日しか活動することができない。アメリカ側はエイブラムスの投入により、「兵站の悪夢」が起きる事態を恐れたという。

 ウォー・ゾーン誌(1月26日)も同様の見地から、今回供与が決定したものの、こうした「兵站上の大きな課題」は考慮されていないと指摘する。

 ◆供与は「外交上のダンス」にすぎないとの指摘
ほか、エイブラムス戦車の運用には、数ヶ月の訓練が必要となる。NBC CTは、それでも供与に至った現状を、「政治的な現実と外交上のダンス」の産物だと指摘している。1月20日にドイツのラムシュタイン米空軍基地で開かれたウクライナへの支援をめぐる国際会議の場で各国との「激しい」議論が交わされ、最終的にアメリカは供与へと動いた。

 ウォー・ゾーン誌は、エイブラムスが現地に到着し、ウクライナ軍が兵士の訓練を完了するまでに、数ヶ月を要するだろうとみる。完全なゲームチェンジャーにはなり得ないが、車両による戦闘能力を大きく押し上げることに間違いはないと同誌は指摘している。

Text by 青葉やまと