ロシアが「電子戦」をウクライナ東部で本格展開 初期の消極姿勢から一転

ロシアの軍事演習、Palantin-K電子戦システム(2021年9月)|Russian Defense Ministry Press Service via AP

◆なぜか使用控えたロシア
 アメリカ軍のデータによるとロシアは、衛星の信号やレーダー誘導兵器の動作などを160キロ先までかく乱できる「クラスハ-4」や、ドローンの妨害も可能なより高度なシステム「ボリソグレブスク-2」などの車両型妨害システムを保有している。これら強力な兵器を対ウクライナ戦で積極的に導入してこなかった経緯は不明が、テレグラフ紙は、アナリストによる推論を掲載している。それによると、兵士の訓練不足で適切に運用できない懸念があったほか、電子戦車両がウクライナ側にろ獲されることをロシア軍が恐れていた可能性があるという。

 ここにきて多用されるようになった理由としては、ロシア軍の展開パターンの変化が影響しているようだ。外交コラムニストのデイヴィッド・イグナチオ氏は、米ワシントン・ポスト紙(5月3日)への寄稿のなかで、ロシアの電子戦装置が大型であり、進軍しながらの運用には適していなかったと指摘する。一方、最近ではドンバス地方の比較的狭い領域を攻めており、これにより一所に固定した運用が可能となったことが考えられる。

◆改善目立つウクライナ
 一方、ウクライナ側もここ数年で電子戦の技術を高めており、ロシアによる侵攻前には輸出も行っていたほどだ。A P通信によると、2014年からのロシアによる東部侵攻では電子戦で苦戦したが、ここ数年での独自の改善とNATOによる兵器提供を受け、電子戦能力が飛躍的に向上した。

 ワシントン・ポスト紙はウクライナによる電子戦のひとつの成果として、ロシアの電子戦のエキスパートとして名高かったアンドレイ・シモノフ少将が4月末、ロシア側司令部へのウクライナによる攻撃を受けて死亡したと報じられた一件を挙げている。ウクライナが司令部の位置を正確に特定できたことは、位置特定における「驚くべき熟練度」を物語っているという。

 両軍とも電子戦については詳細な情報公開を避けており、軍内部でも高位の機密レベルに該当するとみられる。今後も高度な攻防が続きそうだ。

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Text by 青葉やまと