分析:原油価格高騰、ウクライナ戦争で正念場のサウジアラビア

Amr Nabil / AP Photo

 世界的なエネルギー価格の高騰により世界最大の石油輸出国であるサウジアラビアの懐は潤っているが、この国を治める直情的なムハンマド・ビン・サルマン皇太子からすると問題が山積している。

 増え続ける若年失業者の雇用を確保するにせよ、自らが主導してきたイエメン内戦を終結に向かわせる手段を探るにせよ、皇太子と父のサルマン国王は現在、ロシアのウクライナ侵攻の渦中にあって王国の重要な局面を迎えている。

 イランとの緊張の高まり、燃料価格の高騰によりアメリカの緊張が高まっているところ、サウジを統治しているアル・サウド一族は、ペルシャ湾広域の安全保障を長らく確保してきたアメリカとの不安定な関係を刷新できるだろうか。あるいは、原油の最大の輸入国である中国にさらに傾斜するか、それともロシアに向かうのか。

 アメリカと和解するのは難しそうだ。最近のインタビューで、バイデン大統領に知ってもらいたいことはあるかと問われたムハンマド皇太子は「知ったことではない」と吐き捨てると、「アメリカの国益を考えるのは彼らの仕事だ」と述べている。

 だが、国益といえば、戦争によって経済的なメリットを即座に得ることができる国はサウジをおいて世界のどこにもない。

 広大な砂漠の地表付近に莫大な石油資源があるため、この国は世界で最も効率的に原油を産出できる。国際金融協会(IIF)によると、原油価格がバレルあたり10ドル(約1225円)上昇するとサウジは年間400億ドルの追加収入を得られるという。
 
 2020年4月ごろには新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行によるロックダウンの影響で原油価格が下落していたことを考えると、劇的な変化が起きているといえる。現時点で原油価格の国際指標である北海ブレント価格は2014年以来の高値圏にある。

 紅海の北側にある砂漠地帯に「ネオム(Neom)」と呼ばれる未来型都市の開発構想を掲げる36歳の皇太子にとって、こうした追加利益が得られるのはありがたい話だ。最近、中東の衛星テレビチャンネルで放映されたCGコマーシャルのなかで、「Trojena」というスキーリゾート建設プロジェクトが何度も放映されている。

 ところが、確かに広々とした宮殿は建てられたものの、衛星画像・地理空間ソリューションのプロバイダーであるプラネット・ラボスPBCが捉えた衛星写真を見る限り、ネオムプロジェクトはまだ初期段階にとどまっている。サウジの経済を石油から脱却させようと皇太子が目論む雇用創出を実現するには数年かかるだろう。

 ところで、サウジアラビア統計局の調査によると、2011年の「アラブの春」の騒乱以降に注目されるようになった若年層失業率は昨年末時点で男性が32.7%、女性が25.2%だった。超保守派が音楽を罪深い行為とみなしているこの国では、映画館が営業を再開し、コンサートの開催が許可されることで新たな雇用が生み出される。

 皇太子は最近のアトランティック誌とのインタビューのなかで「私の力で失業率を引き下げ、観光振興によって国内で100万の雇用を創出できるなら……それをしなければならない。大きな罪ではなく小さな罪を選ぶのだ」と述べている。
 
 だが、人権活動家や一部の欧米諸国からみると、この国の輝きは失われてしまったようだ。

 パンデミックが落ち着いた3月中旬、サウジは過去最高となる1日で81人の死刑を執行した。イエメンでは皇太子が早期の勝利を宣言した後、4月初旬に始まるイスラム教のラマダン(断食月)を控えて一方的な停戦がなされたが、フーシ派の反政府勢力に対抗するサウジ主導の内戦は激化している。これによりアラブ世界で最も貧しいイエメンが壊滅的な被害を受けた。

 国際的に最も注目を集めたニュースは、2018年にトルコ・イスタンブールのサウジ領事館でワシントン・ポスト紙のコラムニスト、ジャマル・カショギ氏が殺害された上に遺体が切断された事件だろう。カショギ氏が数日前に領事館を立ち去ったと虚偽の発表をしていたサウジは、後になって殺害したことを認めた。

 トルコは先月31日、カショギ氏殺害をめぐって現在行われている裁判を終結させる動きを見せた。経済的な利害関係を理由として、エルドアン大統領がサウジやアラブ首長国連邦(UAE)との関係修復を目論んでいることが背景にある。アメリカの情報機関は、同国の永住権を取得していたカショギ氏の殺害を皇太子が承認したと見ているが、緊密な同盟国との問題を解決することは非常に難しい。

 バイデン大統領は選挙期間中に皇太子を「のけ者」と呼んでいたほか、就任後は当てつけのようにサルマン国王としか会談していない。前任のトランプ氏がサウジで剣の舞を披露するほど友好的だったのに対し、バイデン大統領初の外遊先はイギリスで開催されたG7サミットだった。

 サウジは、フーシ派による同国の石油施設への攻撃によってエネルギー価格が高騰することに対して責任を負わないと繰り返し述べている。バイデン政権は昨年サウジからアメリカのミサイル防衛システムを撤去しているため、バイデン大統領への圧力は強まっている。

 サウジやUAEはロシアとの関係を維持しつつ、現在の局面を利用してイエメン内戦でアメリカの譲歩を引き出そうとしているようだ。また、サウジは原油輸出代金の一部を米ドルではなく人民元で中国と取引することを改めて検討しているとされる。

 ウクライナのゼレンスキー大統領も最近では、中東地域のエネルギー大国に対し「ヨーロッパの未来は各国の取り組みにかかっている」と語るなど、この事態に積極的に関与する姿勢を見せている。
 
 サウジの英字新聞アラブ・ニュース紙編集長のファイサル・J・アッバス氏は「ウクライナ情勢の変化による不確実性に端を発したインフレで世界が一様に苦しみに喘いでいるいま、世界のエネルギー供給を確保するためにはサウジを無視できないし、そうしてはならない」とした上で、「これは、世界のあらゆる家計に影響を及ぼす国際問題である。だからこそ、サウジはどのような支援であれ、それを受けるに値する」と記している。

 今後、その支援をどこから受けるかが問題となる。

By JON GAMBRELL Associated Press
Translated by Conyac

Text by AP