米、アフガン凍結資産を9.11遺族のため保有 カルザイ元大統領は非難

Hussein Malla / AP Photo

 アメリカ政府による大統領令が発令され、同国内で凍結されているアフガニスタンの資産のうち35億ドルを、9.11同時多発テロの犠牲者家族のために保有する方針が発表された。これを受けてアフガニスタン元大統領は2月13日、アフガニスタンの人々に対する残忍な行為であると批判した。

 満員の記者会見に臨んだハミド・カルザイ元大統領は、アメリカ国民、とくに9.11同時多発テロ攻撃で犠牲になった数千人の遺族からの支援を請い、ジョー・バイデン大統領が先日署名した大統領令を撤回するよう願い求めた。カルザイ氏は大統領令を「不当であり不公平だ」と述べ、アフガニスタン人もまた、ウサマ・ビンラディン率いるアルカイダによる犠牲を払ってきたと訴えた。

 ビンラディンは1996年にスーダンからの退去を強いられた後、アフガニスタンの武装勢力とともにアフガニスタンへ入国した。この武装勢力はのちに、アメリカを中心とする多国籍軍と同盟を組み、2001年、タリバンを失脚に追い込んだ。一方で、数千人が犠牲となった9.11テロ攻撃後、ビンラディンをアメリカへ引き渡すことを拒んだのは、タリバンの指導者であるムッラー・モハンマド・オマルである。

 カルザイ氏は「アフガニスタンの人々は、アメリカの人々の痛みを分かち合います。9.11の悲劇のなかで亡くなった方、命を落とした方の家族や愛する人の痛みをともに分かち合います。私たちは哀悼の意を示します。(一方で)アフガニスタンの人々も、遺族と同様に犠牲者なのです。(中略)アフガニスタンの人々の名を借りて財産を差し押さえたり没収したりすることは不当かつ不公平なことであり、アフガニスタンの人々に対する残忍な振る舞いです」と述べている。

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 バイデン大統領が11日に署名した大統領令によって、アメリカが凍結していたアフガニスタンの資産70億ドルが解除された。そして、9.11同時テロ犠牲者への賠償と、アフガニスタンの人道支援に資産を活用する方針が発表された。

 アメリカ国内で銀行機関が保有する70億ドルとタリバンは、9.11同時テロ犠牲者と遺族が起こしている訴訟の対象になっている。35億ドルはアメリカの裁判所に留保され、9.11同時テロ遺族への賠償に充てられるかどうかの決定が委ねられる。人道支援金として利用する場合にも、裁判所からの承認が必要となる。

 カルザイ氏は「アメリカの裁判所には正反対の道を選んでほしいと思います。アフガニスタンの人々に、アフガニスタンの財産を返してほしいのです。この財産はどの政府に属するものでもありません。アフガニスタンの人々のものなのです」と訴える。

 一方でバイデン政権からの大統領令によると、人道支援に充てられる35億ドルは信託財産に組み入れられ、タリバン政権の手に渡ることなくアフガニスタンを支援するために活用される予定である。

 しかし、カルザイ氏は金融政策の取り組みを進めるために、全額の70億ドルをアフガニスタン中央銀行へ返却するよう要求している。同氏は、凍結されたアフガニスタンの財産を人道支援のために国際援助団体へ提供することについて異議を唱えている。

 カルザイ氏は「アメリカは、私たちに私たちの財産を渡そうとしています。そうすれば、私たちは入国する外国人のためにお金を使い、彼らの給料を支払い、非政府組織への資金を支払うことができますから」と述べている。

 アフガニスタン経済は崩壊寸前である。2021年8月中旬にタリバンが権力を掌握して以来、国際社会からの資金流入が途絶えた。2022年1月、国際連合はアフガニスタンに対して50億ドルの支援が必要であると訴えた。さらに、100万人の子供たちが飢餓の危険にさらされており、アフガニスタン国内に住む90%の人々が、1日1.9ドル未満で暮らす極度の貧困層に置かれていると警鐘を鳴らす。

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 2001年、アメリカを中心とする多国籍軍によりタリバンが政権から追放された。その後、カルザイ氏は民主的に選出された初めての大統領となり、2014年にアシュラフ・ガニ前大統領に代わるまで任期を務めた。カルザイ氏による政権は、アフガニスタン国内に多数ある民族グループすべてをうまく包括していると高く評価されていたものの、その後に続く政権同様、横行する汚職疑惑と常に隣り合わせであった。ガニ氏は2021年8月15日、タリバンが首都カブールへの侵攻を進めるなか国外へ退去した。

 カルザイ氏がカブール中心に構える邸宅で行った記者会見は満員であった。2階の会見場には10数台以上のテレビカメラが設置され、パシュトー語やペルシア語を話す数十人のジャーナリストが場所取りをめぐってせめぎ合った。

 同氏は会見を通して、国を支配するタリバンとその敵対勢力に対し、連帯する道を探るよう迫った。両者の合意を見出し、国の代表としてより大きな存在感を示す政権を確立するための手段として、伝統的な合議機関である「ロヤ・ジルガ(国民大会議)」に働きかけた。

 カルザイ氏は「アメリカや他国に我々と敵対する口実を与えないよう、私たちアフガニスタン人や現政権を担うイスラム組織は最善を尽くさなければいけません」と述べている。

 11日に大統領令が発令されて以降、アフガニスタンでは怒りが高まっている。13日には再びカブール市内でデモ行進が行われ、参加者はアフガニスタンに財産を返却するよう声高に訴えた。タリバンはバイデン政権による大統領令を強く非難してきたものの、抗議者を解散させ、市内のイードガー・モスク周辺へ集合するよう促した。

By KATHY GANNON Associated Press
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP