リトアニアへの「制裁」めぐりEUが中国をWTOに提訴 その経緯とは?

欧州委員会のドムブロフスキス上級副委員長(2021年12月7日)|Olivier Matthys / AP Photo

◆外交策の転換
 2020年、リトアニアの新外相に任命されたガブリエリュス・ランズベルギスは、ソ連から独立後、最初のリトアニア元首を務め、反共産主義者としても知られたヴィータウタス・ランズベルギスを祖父にもつ人物だ。この人選にも見えるように、ヴィリニュス大学のアンドリヤウスカス准教授は、「(リトアニア)政府は、政治的価値観をより多く共有する国を優先する外交政策へと転換」したとみなす(フランス24、2021/11/20)。

 実際、リトアニアは昨年5月に中国と中東欧による「17+1」離脱を決定し、ほかの16ヶ国にも脱退を呼びかけるという大胆な行動に出ている。

 また続いて同年9月には、中国製スマートフォンには監視機能が仕込まれている可能性があるとして、国民にその使用をやめるようにとも呼びかけている。

◆中国による外交的経済的圧力
 リトアニアの姿勢に対し、中国はさまざまな「制裁措置」を取った。昨年の夏にリトアニアが「台湾代表処」の設置を認めた直後の8月には、駐ヴィリニュス中国大使を本国に呼び戻し、「台湾代表処」開設の3日後の11月21日にはリトアニアとの外交関係を格下げした。同月25日にはリトアニア人へのビザ発給の停止を決めている(ル・モンド紙、1/27)。外交官のステータスを失った中国国内のリトアニア大使館員約20人は、昨年12月半ば緊急帰国を余儀なくされた。ただし中国はリトアニア外交官らにはなんの圧力もかけていないと述べている(ル・モンド紙、2021/12/23)。

 経済面も同様だ。12月頭には、リトアニアから中国の港に到着したコンテナは「技術的問題」のために荷下ろしが許可されなかった(同)。

 中国からリトアニア業者への発注の取り消しが相次ぎ、税関のウェブサイトでは選択肢から「リトアニア」が消え、リトアニア企業からの品物は情報入力ができなくなった。ただし、いずれも中国によれば、「技術的問題」によるもの、もしくは中国企業が愛国心から出た行動であり、政府が関与する「制裁措置」ではないという。(ユーロニュース、1/28)

 中国は「制裁」対象をリトアニア企業に留めなかった。ドイツやフランス、スウェーデン、フィンランドなど別の国の企業からであっても、リトアニア製の製品が含まれている場合は通関を拒否したのだ(フィガロ、2021/12/24)。そしてこれが、欧州委員会が1月27日にWTOへの提訴に踏み切った理由となった。リトアニア一国の問題ではなく、EUという単一市場に関わる問題となるからだ。提訴にあたり、欧州委員会は、中国の主張に反して、一連の制限はまぎれもなく中国によって課せられたものだという証拠を収集した(フランス・アンフォ、1/27)。

Text by 冠ゆき