リトアニアへの「制裁」めぐりEUが中国をWTOに提訴 その経緯とは?

欧州委員会のドムブロフスキス上級副委員長(2021年12月7日)|Olivier Matthys / AP Photo

 欧州連合(EU)は1月27日、中国を世界貿易機関(WTO)に提訴した。これは中国がリトアニアに対して取っている非公式な「経済的制裁措置」がEU単一市場を脅かすことを理由とするものだ。中国による「制裁措置」は、昨年リトアニアが同国首都に台湾代表事務所の開設を認めたことに端を発している。だが、実はリトアニアではそれ以前にも反中の機運が高まっていた。その経緯を説明する。

◆「一つの中国」主張
 リトアニアの首都ヴィリニュスに台湾の代表機関「台湾代表処」が開設されたのは昨年11月18日のことだ。これは、事実上台湾の駐リトアニア大使館と目される施設である。良く知られる通り、中国は台湾を自国領土の一部とみなしており、諸外国にも同様の見方を求めている。そのため、中国は「台北」という名称は認めるが、「台湾」表記は認めていない。日本にある台湾の外交機関の名称が「台北駐日経済文化代表処」であるのはそういう理由だ。そのため、リトアニアが「台湾」名を冠した代表機関の開設を許したことは中国の怒りを買った。

 ちなみに現在、台湾を公式に一国家と認めるのは、バチカン、ベリーズ、グアテマラ、ホンジュラス、パラグアイなど14の小国だけだ。最近までこのリストに名を連ねていたパナマやエルサルバドル、ニカラグアは、中国との接近を図るため台湾と断交した。

◆リトアニアの反中機運
 一時はポーランドと国家連合を結び大国だったこともあるリトアニアが、ロシア帝国の支配やナチスドイツの侵攻、ソビエト連邦への編入などを経て、独立を回復したのは1991年のことで、現在は約280万人の人口を有する。

 この小国が、中国の不興を買うとわかっていながら下した決定には世界が驚いたが、ここ数年を振り返ると、同国の反中世論は急に生まれたわけでもない。

 2019年の夏にヴィリニュスでは、民主主義を訴える香港市民に賛同する運動が行われた。これは、1989年にリトアニア、ラトビア、エストニアで行われたソ連支配への抗議と同様に活動家たちで人間の鎖を作る運動だった。ところがこの時、デモ妨害者が複数現れ、警察に拘束される騒動となった。この妨害は中国大使館の当局者が計画したと見られている。(ロイター、2019/9/2)

 同年秋には、リトアニアで最も神聖な場所の一つである「十字架の丘」で中国人旅行者が起こした冒涜行為が注目された。十字架の丘は、宗教が禁じられていたソ連統治下においては非暴力的抵抗のシンボルでもあった聖地で、いまも人々が願いを書いた十字架を立てに来る巡礼地だ。ネットで話題になった動画には、中国人女性が香港支持スローガンを書いた十字架を見つけて馬鹿にし、投げる場面が映っていた。

Text by 冠ゆき