「不当な差別、撤回を」南部アフリカからの渡航禁止、現地反発の理由

南アフリカのラマポーザ大統領|Themba Hadebe / AP Photo

◆物議を醸した渡航禁止
 南アフリカのラマポーザ大統領は、オミクロン発見直後の11月28日に行ったコロナウイルス感染対策の進捗に関する国民演説のなかで、国民に対してワクチン接種の重要性を改めて訴えるとともに、南アフリカはWHOのガイドラインにならって国境閉鎖は行わないという方針を示した。同時に、オミクロン発見を受けて他国が南部アフリカからの渡航禁止措置をとったことに関して遺憾の意を示すとともに、このような措置は10月にローマで開催されたG20会議で確認された方向性とは異なるものだと批判した。G20ローマ首脳宣言には、苦境に立たされた、とくに途上国における観光業界の回復を支援するという内容が盛り込まれている。さらに、ラマポーザ大統領は、渡航禁止措置を行った各国に対し、このような制限措置は非科学的かつ不当であり、南部アフリカ各国を不当に差別するものであると非難した上で、制限の迅速なる撤回を要求した。

 南アフリカのメディア、マリ&ガーディアンは、渡航禁止は非情かつ人種差別的な論理だと批判。たとえば、オミクロンは米国、英国、カナダ、オランダなど欧州各国でもすでに発見されており、アフリカとは関係ないケースも含まれているにもかかわらず、これらの国同士では渡航制限の措置が取られていない点を指摘。また、フランスなどが自国民、外交官やEU市民に対してのみ渡航を許可する措置をとった点についてもその矛盾を指摘した。南アフリカ版のビジネス・インサイダーは、オミクロンが見つかったのは南アフリカの研究所が秀でているからであって、南アフリカが変異株の温床というわけではないとし、南アフリカが迅速な報告によって世界に警鐘を鳴らしたことが、渡航禁止といったようなかたちで「罰せられる」点に関して懸念を示した。南部アフリカは、コロナウイルス発生以前から、HIV、エボラ出血熱、結核などの病気を追跡・監視してきており、その監視体制は世界のトップレベルだ。また、アルジャジーラのオピニオン記事は、アフリカ各国に対する全面的な渡航禁止措置は、植民地支配時代に遡るアフリカやアフリカ人に対する偏見や軽視といった態度を反映したものだと批判。オミクロンを南アフリカのウイルスだとして、南アフリカやアフリカに汚名を着せるような報道のあり方などについて懸念を示した。

 渡航禁止から約3週間後の12月15日、英国は南部アフリカからの渡航禁止・制限措置の撤回を発表。この判断は、とくに南アフリカにおける観光業界にとっては歓迎すべき朗報ではあるが、年末年始休暇の旅行需要への打撃はすでに発生してしまっている可能性が高い。3週間前の渡航禁止措置発表以後の48時間以内で、すでに10億ランド(約70億円)規模の旅行キャンセルが発生した。今回の「レッドリスト追加」措置による、中長期的な経済打撃はいまだ把握しきれていないというのが関係者の見解のようだ。南部アフリカの観光業界関係者は、英国にならって渡航禁止措置を行った他国に対しても、措置撤回を要求している。夏を迎える南半球は、これからが観光シーズンピークとなる。公衆衛生リスクに加え、アフリカに対する偏見が、南部アフリカ各国の経済回復のさらなる足かせになるという事態は、決して望ましいものではない。

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Text by MAKI NAKATA