アフガン難民危機を恐れる欧州 タリバン権力掌握で

Emrah Gurel / AP Photo

 トルコとイランを隔てる新しい国境の壁を上空から見ると、不毛な丘でとぐろを巻いている白蛇のようだ。現在、この壁は540キロにわたる国境の3割ほどしかカバーしておらず、真夜中のうちに移民が通り抜けられる隙間がたくさんある。

 中央アジアからヨーロッパにいたるこの主要ルートの往来は、以前と比べると比較的落ち着いていた。しかし、タリバンによるアフガニスタン支配が早晩復活することで、ヨーロッパ諸国やトルコは状況が変化することを恐れている。

 シリア内戦に端を発する2015年の移民問題に悩まされたヨーロッパの政治指導者は、アフガンからやって来る大量の難民・移民を阻止しようと躍起になっている。20年におよぶ戦争で欧米の軍隊に協力した人を除き、ヨーロッパへの脱出を考えているアフガン人へのメッセージは、「出国しなければならないのなら、ヨーロッパではなく近隣の国に行ってほしい」というものだ。

 オーストリアのカール・ネハンマー内相は先週、「難民の多くを向こう側の地域にとどめておくことを目標にしなければならない」と述べ、多くのヨーロッパ指導者たちの意見を代弁した。

 AP通信が入手したドイツの外交機密メモによると、EU高官は先週開かれた内相会議で、「2015年の難民危機で得られたもっとも重要な教訓は、アフガン人の好きにさせてはいけないということだ。緊急の人道的支援を行わなければ、難民の移動がはじまるだろう」と話している。EUのなかでも移民強硬派のオーストリアは、アフガニスタンに隣接する国に「強制送還センター」を設置し、亡命が認められなかったアフガン人を祖国に送還できなくても、EU加盟国が強制送還できる仕組みを設けるよう提案した。

 カブール空港から離陸する航空機にしがみつくアフガンの人々を映した絶望的な光景を目にしたヨーロッパの人々は、難民問題が発生するかもしれないという不安をさらに深めることになった。アメリカとNATO同盟国は、欧米の軍隊に協力したとしてタリバンの報復を恐れる数千人ものアフガン人を性急に避難させようとしている。だが、ほかのアフガン人が同じように歓迎されることはないだろう。

 2015年以降、欧米諸国のなかでもっとも多くのシリア難民を受け入れてきたドイツでさえ、今回は異なるメッセージを発している。

 中道右派連合でメルケル首相の後任候補と目されるアルミン・ラシェット氏をはじめとする複数のドイツ人政治家は、2015年の移民危機を「繰り返してはならない」と警告している。

 フランスのマクロン大統領も、アフガン情勢について「ヨーロッパだけが負担を負うことはできない」とした上で、「大規模かつ不規則な移民の流れを予想し、それに備えなければならない」と強調している。

 2020年にEUを離脱したイギリスは、今年は5000人のアフガン難民を受け入れ、今後数年で2万人のアフガン人を定住させるとしている。

 自国民やアフガン人協力者を避難させることを除き、ヨーロッパ諸国から具体的な提案はほかにほとんどなく、アフガン国内やイラン、パキスタンなど近隣諸国にいるアフガン人の支援に注力しているという。
 
 欧州委員会のイルバ・ヨハンソン委員(内務担当)は、「難民がEU国境の外に現れるのを待つべきではない」と述べている。
 
 シャルル・ミシェル欧州理事会議長は8月21日、マドリッド訪問時にアフガン難民を受け入れるスペインの臨時施設を視察し、ヨーロッパが直面している課題を認識した。

 ミシェル氏は、「EUでは、第三国とのパートナーシップが議論の中心となるだろう。私たちは、秩序ある一貫した方法で移住が可能になるような戦略を採用しなければならない」とした上で、「EUの尊厳と、EUの利益を守る能力との間のバランスをはかる必要がある」と述べている。
 
 6年前、トルコの海岸に面した風光明媚な島々が数十万人ものシリア、イラク、アフガン難民のヨーロッパへの入口となったギリシャでは、あの危機の再来を望まないと明言している。

 ノーティス・ミタラチ移民相は、ギリシャが「EUへの不法流入の入り口」となるのは容認できないとしつつ、「アフガン人にとって安全な場所はトルコだ」と述べている。
 
 この発言はトルコのエルドアン大統領を激怒させた。トルコではすでに360万のシリア人、数十万のアフガン人を受け入れており、彼らをヨーロッパに送るという脅しを政治的に利用してきた。
 
 エルドアン大統領は8月19日の演説で、「トルコはヨーロッパの難民倉庫になる義務も責任もない」と警告している。
 
 また、翌日にはギリシャのミツォタキス首相との数少ない電話会談でアフガンからの移民について話し合ったほか、イランともこの問題について議論しているという。
 
 2015年の危機以降、ヨーロッパでは移民に対する態度が硬化している。9月に連邦議会選挙を控えているドイツでは、最大野党「ドイツのための選択肢(AfD)」のような極右政党の台頭を促した。
 
 トルコでさえも、かつてはシリアやアフガンからの移民はイスラムの同胞のように扱われていたが、インフレや失業率の高まりにともない、疑惑の目で見られることが多くなっている。
 
 エルドアン大統領は移民に対する国民の「不安」を認めた上で、政府としては「イランと東側で接する国境を、軍隊、憲兵隊、警察に加え2017年から建設している新たな壁で強化している」と述べている。
 
 AP通信の記者は先週、トルコ・イラン国境付近で数十人ものアフガン人に遭遇した。大半が若い男性だったが、女性や子供もいた。夜間に少人数で密入国した彼らは、タリバンや暴力、貧困から逃れるために国を後にしたという。

 ハッサン・カーンと名乗る若者は、「タリバンがアフガン全土を掌握し、情勢は緊迫している。けれどあの国には仕事がないので、やむを得ずここに来た」と言う。
 
 観測筋によると、大規模な越境の動きが発生する兆候はみられない。トルコは2020年通年で5万人以上、2019年は20万人以上のアフガンからの不法移民の受け入れを阻止したのに対し、今年はすでに3万5千人にのぼると当局は話している。
 
 国連難民高等弁務官事務所(UNCHR)の推計によると、国外にいる260万人のアフガン難民の9割は隣国のイランとパキスタンに居住している。両国では、より良い経済機会を求めて越境した多くのアフガン人も受け入れている。
 
 これに対し、過去10年間でEUに亡命申請したアフガン人は約63万人で、ドイツ、ハンガリー、ギリシャ、スウェーデンでの申請がもっとも多かった(EU統計局調べ)。
 
 ノルウェー難民評議会のヤン・エーゲランド事務局長は、「タリバンの占拠が新たな難民問題につながると決まっているわけではない」とした上で、「自己実現的な予言には注意したい。アフガンの人々は、恐怖を感じ困惑しているものの、長い長い戦争が終わり、砲撃を受けなくて済むかもしれないという希望も持っている」と述べている。 

 タリバンが国土開発や人道支援の活動を継続できるかが問題だという。エーゲランド氏は、「公共サービスが崩壊し、大規模な食糧危機に見舞われるようなことがあれば、間違いなく人の大移動が起こるだろう」と話す。

By KARL RITTER and MEHMET GUZEL Associated Press
Translated by Conyac

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