トランプ・タリバン合意から始まった「アフガン崩壊」

和平合意署名後に握手する米国のアフガニスタン和平担当特別代表(左)とタリバンのバラダル師(2020年2月29日)|Hussein Sayed / AP Photo

◆滞ったアフガン通訳へのビザ発給
 政治・文化情報サイト『スレート』によると、この合意後、米軍はアフガニスタン内にある基地から撤退を開始。ポンペオ氏はタリバンがアフガニスタン政府への攻撃を停止する約束をしたと述べたが、逆に攻撃をエスカレートさせていった。また同記事によると、トランプ政権との合意では、タリバンは国際テロ組織アルカイダと関係を断つはずだったが、米国防総省は2020年7月1日、アルカイダが「日常的にタリバン下層部の戦士を支援し共存している」「タリバンによる攻撃を補助している」と報告している。

 トランプ政権下で、マイク・ペンス前副大統領の国土安全保障顧問を務めていたオリビア・トロイ氏はツイッターで、現在問題になっているアフガニスタン人通訳など米軍協力者へのビザ発給の遅れはトランプ政権の責任であると言及。ビザ発給に関する閣僚会議が開かれると、「スティーブン・ミラー(前上級顧問)が、イラクとアフガニスタン(人)についての人種差別的ヒステリーを主張した」「彼と、(トランプ)政権の彼の味方は、国土安全保障省と国務省の(移民に関する)システムを破壊して、この特別ビザ発給のために働いていた人々の努力を台無しにしていた」などと述べた。トランプ政権のイスラム教徒入国禁止令を思い出せば、同政権がイラク人やアフガニスタン人の米軍協力者を入国させるつもりはなかったのかもしれない。こうして米軍協力者へのビザが滞り、今回の悲劇に至ったのである。

◆共和党がタリバン合意ページ削除
 トランプ前大統領は、昨年11月の大統領選後、自分の敗北を認めずにバイデン大統領への政権移行手続きを正式に行っていない。もちろん、ビザ発給手続きが遅れていた内部情報も受け継いでいなかっただろう。トランプ氏の予定では米軍はアフガニスタンから今年5月1日までに完全撤退するはずだった。誤算は昨年の大統領選挙でトランプ氏が落選し、バイデン氏が撤退作業を受け継ぐ羽目に陥ったことである。もしトランプ氏が当選していたら、アフガニスタン人の米軍協力者のほとんどはビザの発給が受けられないままで崩壊した国に残されていたに違いない。
 
 共和党や右派メディアはいまトランプ政権とタリバンの合意には触れず、今回の米軍撤退とアフガニスタン政府崩壊について、バイデン氏の責任を執拗に叫んでいる。しかし、合意はすべてトランプ政権時代に行われていたものである。事実、ニューズウィーク(電子版)によると、共和党ウェブサイトは、トランプ前大統領による「タリバンとの歴史的な平和合意」を称えるページを急いで削除した。

 アフガニスタンはトランプ前政権がタリバンと交わした合意の結果として徐々に崩壊していった。バイデン大統領は前政権の尻ぬぐいをさせられているに過ぎない。

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Text by 川島 実佳