進む中露のワクチン外交 西側先進国の穴埋める
◆自国で手一杯の先進国 中露にチャンス到来
多くの西側先進国では、人口の何倍もの数のワクチンを事前注文しているが、製薬会社の供給量自体が少なく、接種に遅れも出ている。加えて国内の感染も深刻でロックダウン中のところも多く、とても国外まで手が回らないのが実情だ。そのようななか、これを好機として中国とロシアが積極的にワクチン供給に乗り出している。
中国はすでにシノファーム、シノバック製などの国産ワクチンを承認しており、さらに複数のワクチンを開発中だ。ディプロマット誌は、中国にとってワクチン供給は、ウイルスを生み世界に拡散させたというイメージを塗り替える絶好のチャンスだとしている。ブルームバーグは、すでに商用化されたワクチンにアクセスできることや、欧米と違って国内で接種する緊急性がほとんどないことなどが、中国ならではの強みになっていると指摘している。
ロシアの場合も、ワクチン供給はそのソフトパワーを海外で拡大し、ロシア科学の存在感を世界に示すチャンスでもあるとディプロマット誌は指摘する。開発されたワクチン、スプートニクVに西側諸国は懐疑的だったが、英医学誌ランセットが有効性を確認したことで評価が高まった。
現在中露はワクチン製造で戦略的パートナーとなっており、中国産ワクチンの治験をロシアが行っている。さらに中国がスプートニクVの製造も始めるとされ、知的財産権の問題が解決すればさらに技術協力は進むのではないかとディプロマット誌は述べている。
一見ワクチン供給では西側先進国対中露のようにも見えるが、中露のライバルとしての競争もある。いまやワクチンは国家の自衛と外交政策のカギになっており、ワクチンがソフトパワーと外交術の道具になっているとブルームバーグは指摘している。旧ソ連の中央アジアでは、スプートニクVとインド製のアストラゼネカワクチンが優勢。EUからのワクチン供給が遅れているバルカン半島でも、中露のワクチンが競い合っているという(ディプロマット誌)。
◆ワクチン買い占めは中露を利する 先進国も行動を
ワシントン・ポスト紙は、中露のワクチンに懸念を示す。スプートニクVに関しては、第3相臨床試験が行われず多くのロシア人が接種したくないと答えたことに言及。さらにランセット誌には認められたものの、そもそも独裁的なロシアが出してきたデータの正しさを疑っている。中国に関しても、国内のパンデミック報道を抑え、WHOのウイルスの起源に関する調査にも防衛線を張っていたとし、こういった政治体制の国から出てきた研究には慎重になるべきだとしている。
ブルームバーグは、中露の戦略的なワクチン外交が進むなか欧米がワクチンを囲い込んでいる現状を問題視しており、援助の形としてワクチン製造の技術を途上国に移転することを提案している。先進国の首脳は、他者の安全は自分の安全であることを心に留めるべきだとし、共有と協力は前進のためのカンフル剤だとしている。
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