イラン核科学者暗殺、高まるイランとイスラエルの緊張

モフセン・ファクリザデ氏殺害現場(11月27日)|Fars News Agency via AP

 来月20日のバイデン政権の発足が近づくなか、中東では一つの緊張が密かに高まっているようだ。それはイランとイスラエルの動向で、両国間で直接的な軍事衝突(戦争)に発展する可能性は考えにくいものの、戦争には至らない手段で報復合戦が展開される恐れがある。

◆テヘランで核開発の科学者が殺害される
 イランの首都テヘラン郊外で11月27日、著名なイラン人の核科学者モフセン・ファクリザデ氏が暗殺された。現地メディアは、ファクリザデ氏は「遠隔操作できる自動小銃」か「人工衛星から操作された」武器で殺害されたと報じた。また、使用された武器はイスラエル製で、イラン国家安全保障最高評議会議長は11月30日、背後にイスラエルや同国の対外工作機関モサドが関与していることは間違いないとの見方を示した。

 イスラエルは関与を否定している。しかし、イスラエルはバイデン政権が核合意復帰などイランへ接近することをよく思っておらず、そういった政治的思惑が今回の暗殺に繋がった可能性が十分にある。

◆イランはさらに態度をエスカレート
 そして、核科学者の暗殺が影響してか、イラン国会は2日、国連による核関連施設への査察停止や核開発の拡大を求める法案を可決した。今回の可決はイラン強硬派が推し進めたもので、穏健派とされるロウハニ大統領は可決前から強く反対していたが、これによってバイデン政権の核合意復帰に影響が出てくる可能性もある。同法案の内容は、欧米諸国やロシア、中国と締結された2015年のイラン核合意に違反している。イランは適切な時期にイスラエルへの報復を明言している。

Text by 和田大樹