ウイグル人強制収容所からの人毛ウイッグ、米税関が押収

U.S. Customs and Border Protection via AP

 ニューヨーク州連邦当局は7月1日、中国の強制収容所に拘束されている人々の髪の毛を使用して製造したと思われるウイッグや装飾品などの輸入品を押収した。

 米国税関・国境警備局(CBP)はAP通信に対し、押収されたヘア製品の総重量は13トン、推定価格は80万ドルであると公表した。

 CBP貿易局長補佐官ブレンダ・スミス氏は、「これらの商品は製造にあたり、非常に深刻な人権侵害を引き起こしています。アメリカ国内のサプライチェーンにおいて不正や非人道的な行為は許されるものではありません。アメリカと取引を望むすべての事業者に対してこの点を明確かつ直接的に伝えるため、押収命令を適用しました」と述べている。

 製造に関わる人々が人権侵害に直面しているという疑惑に基づいて、CBPが中国からの輸入ウイッグ製品を押収する措置を講じることは稀ではあるが、今年に入って2度目である。これにより、不正行為の取り調べが完了するまでの間、当局は輸送コンテナをアメリカへの入国港で保留することができる。

 ウイグル系アメリカ人活動家のルシャン・アッバス氏には、医師である妹がいる。2年近く前に中国国内で失踪し、強制収容所に抑留されていると考えられている。ウイッグを使用する女性たちは、それを製造しているであろう人々のことを考えてみるべきだと、アッバス氏は訴える。

「私たちにとって、このことは胸が張り裂けるようなつらいことです。今日も奴隷のように働かされている人々がいるということを、皆さんに想像してほしいのです。私の妹はどこかに座って、ウイッグのようなものを作らされているのです」と、アッバス氏は話す。

 7月1日に押収された貨物は、「ロップ・カウンティ・メイシン・ヘアプロダクト(Lop County Meixin Hair Product Co. Ltd)」によって輸出された商品である。2020年5月には、「ホータン・ハオリン・ヘアアクセサリー(Hetian Haolin Hair Accessories Co. Ltd.)」に対して同様の押収措置が講じられたものの、同社のウイッグは人毛ではなく人工毛であったと当局は述べている。ホータン・ハオリン社の製品を輸入したのは、ジョージア州ダルース市の「オス・ヘア(Os Hair)」と、テキサス州ダラス市に本社を置く「アイ・アンド・アイ・ヘア(I & I Hair)」である。アイ・アンド・アイ社のウイッグは、「イノセンス(Innocence)」というブランド名で、アメリカ国内の美容室や個人消費者へ販売されている。

 製造元である輸出企業は2社とも、中国最西部の新疆ウイグル自治区にある。そこでは、これまでの4年間で100万人以上と推定されるチュルク系少数民族が、中国政府によって拘束されてきた。

 思想統制を敷くための強制収容所や刑務所に収容されている少数民族の人々は、自身の宗教や言語への批判を強いられ、また、身体的な虐待を受けている。中国政府は長きにわたり、イスラム教徒が大半を占めるウイグル人は民族特有の文化や言語、宗教を理由に分離独立主義の思想を抱いている、と懸念を抱いてきた。

 活動家が「ブラックな工場」と呼ぶ強制収容所や刑務所において、アメリカの人気ブランドによるスポーツウェアや衣料品が製造されていることが、AP通信をはじめとする報道機関によって何度も報じられてきた。

 AP通信は、収容所内での強制労働について調査を行っていた1年以上前、ホータン・ハオリン社への訪問を試みた。しかし、その周辺へ記者を送っていたタクシー運転手は警察に呼び出され、引き返すよう命じられた。さらに、タクシーの位置情報は追跡されていると警告を受けた。

「ハオリン・ヘアアクセサリー」と赤色の大きな文字が掲げられた工場は、有刺鉄線を張った柵と監視カメラで隔離されていることが通りから見てとれた。さらに、入り口はヘルメットを装備した警察官によって封鎖されている。通りの向こう側には、教育施設と思われる施設があり、「国家は偉大である」ことを唱え、共産党に従うことを強要するような政治的スローガンが掲げられていた。工場が収容所内に併設されているかについては明らかではないが、新疆ウイグル自治区の他地域にある収容所では、日中は柵で隔離された施設へ移動して働き、夜になると強制収容所へ連れ戻されていたと、抑留経験のある人々は話す。

 中国外務省は、強制労働の実態もなければ、少数民族を抑留したこともないと説明している。

「アメリカの特定の人々が偏見にとらわれることなく正しく理解すること。そして、中国とアメリカの企業間の正常な経済および貿易における協力体制について、客観的また理性的に考えるよう望んでいます」と、中国政府は声明のなかで述べている。

 2019年12月、新疆ウイグル自治区当局は、収容所はすでに閉鎖されており、抑留されていた人々はすべて「卒業」したと発表した。この地域での報道が厳しく監視され、制限されているなか、その声明について第三者的に検証を行うのは困難である。親戚が解放されたとAP通信に話すウイグル人やカザフ人もいるが、大切な人がいまでも拘留され、懲役を科せられたり、施設内で強制労働を強いられたりしていると話す人も多い。

 政治的な問題をめぐって関税や禁輸措置を講じることはいたって一般的である一方で、アメリカ政府が強制労働によって製造された製品の輸入を禁止することはきわめて稀である。

 このような製品の輸入は1930年に成立した関税法によって禁止されたが、これまでの90年間で政府がこの法律を適用したのは54回のみである。そのうちの大半を占める75%が中国からの輸入製品であり、2016年に当時のバラク・オバマ大統領によって法律が厳格化されて以降、その頻度は高まっている。

 劣悪極まりない強制労働が報告されているものの、「不幸にもその実態に意外性はない」と、クリス・スミス下院議員は述べる。

「強制労働によって製造された多くの製品が、アメリカ国内の店舗に不正に持ち込まれているようです」と、スミス議員は話す。ニュージャージー州の共和党議員である同氏は、人身売買を取り締まる禁止法の制定に向けて先導的な役割を担ってきた。

 2020年6月17日、ドナルド・トランプ大統領は超党派の支持を得た「2020年ウイグル人権政策法」に署名した。これは、「中国の新疆ウイグル自治区における、特定のイスラム系少数民族に対する凄惨な人権侵害」を非難するものだ。

 この法案の可決を求め、ナンシー・ペロシ下院議長は以前より、中国による大量拘束や強制的な避妊手術、ジャーナリストの弾圧を批判していた。

「中国政府によるウイグルの人々への残虐的な行為は、世界が共有する良心を踏みにじるものです」と、ペロシ議長は声明のなかで述べている。

By MARTHA MENDOZA Associated Press
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP