中印衝突、なぜいまなのか? 激化する中国と自由主義陣営の争い

Ajit Solanki / AP Photo

◆なぜ、いまなのか?
 しかし、一番の疑問は、なぜいま衝突が発生したのかということだ。それにはやはり、コロナ禍という政治的タイミングが影響しているだろう。現在、新型コロナウイルスの感染が世界各地に拡大し、国際秩序に新たな変化をもたらしているなか、インド太平洋地域では中国の拡張的行動に対する警戒心が高まっている。東シナ海では中国の海洋活動が活発化し、日中間で新たな亀裂が生じ始めている。新型コロナウイルスの発生源をめぐって、中国とオーストラリアの外交関係はこれまでになく悪化し、国家安全法をめぐる香港情勢によって米中関係もさらに冷え込んでいる。つまり、日本やオーストラリア、米国などインド太平洋地域の自由民主主義国家と中国との間で価値観をめぐる争いが激化しているのである。インド太平洋構想の基軸は、日米豪印によるクワッド協力である。ラダック地方で起こっていることも、そのなかで考えると連動性と整合性が取れる。南シナ海や東シナ海、香港、台湾、そしてラダック地方で発生していることは事象としては別々の問題かもしれない。しかし、価値観をめぐる政治対立という領域では、一つのテーブルの上で一緒に議論されるべき問題でもある。

Text by 和田大樹