中印衝突、なぜいまなのか? 激化する中国と自由主義陣営の争い

Ajit Solanki / AP Photo

 6月中旬、インド北部ラダック地方にある中国との係争地域で、両国軍が衝突した。インド軍兵士20人が死亡したとされるが、死者が出るのは45年ぶりだ。両軍は5月5日にも衝突し、双方で多数の負傷者が出たが、それ以降緊張が高まっていた。中国は、国境付近に兵士5000人あまりを増強するだけでなく、境界線付近に基地や倉庫を建設するなど既成事実化を着実に進めている。インドと中国の係争地域は実行支配線が長年曖昧なままであり、それが中国による過度な行動を許している現実もあるという。

◆モディ政権にとってワンフェーズ上がった対中リスク
 モディ政権は、インド洋などで影響力を拡大しようとする中国を強く警戒している。昨年のインド総選挙で勝利したモディ首相は、第2次政権初の外遊先としてモルディブとスリランカを訪問した。モディ首相は、モルディブで2018年12月に脱中国を掲げて就任したソリ大統領と会談し、モルディブに最大14億ドルもの財政支援を行うと発表し、スリランカのシリセナ大統領との会談でも、スリランカへの政治経済的な支援を強化する意志を示した。ここには、インド洋の覇権争いで中国をけん制するモディ政権の狙いがあったことは間違いない。

 近年、中国はモルディブやスリランカへのテコ入れを強化してきた。中国は「親中」のアブドラ・ヤミーン大統領のもと、モルディブに多額の経済支援を行い、橋や道路、住宅などを次々に建設し、スリランカでは2017年7月、同国南部に建設されたハンバントタ港の利用権が99年にわたって中国に譲渡された。また、中国はパキスタンを一帯一路の要衝に位置付け、2013年1月には南部グアダル港の利用権が43年にわたって中国へ明け渡された。インドを包囲するかのような中国の行動は「真珠の首飾り戦略」とも呼ばれるが、モディ政権はこういった中国のやり方に強い不信感を抱いてきた。

 しかし、今回の一連の出来事によって、モディ政権の対中警戒度はレベルがワンフェーズ上がった。そして、現在、ラダック地方で起きていることは両国の領土紛争という枠に収まるものでなく、インド洋や南アジアにおける中印の覇権争いという現実を内包している。今回の衝突が、インド洋をめぐる争いに影響を及ぼす可能性もある。

Text by 和田大樹

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