原油史上初マイナス、新たに生まれる「中東リスク」

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◆経済の衰退だけでなく暴動やデモも
 そして、原油価格の長期的下落は経済の衰退だけでなく、暴動やデモを誘発するリスクがある。たとえば、上記のカタールやUAEは裕福な国でとても治安がよい。UAEのアブダビなどは東京より犯罪発生率が低いといわれるほど、平穏な街だ。だが、税金や医療費、教育費を取られないのが当然だったなか、突然取られるようになると、その反動としてデモや暴動が起こることは十分に想像される。

 また、産油国であるイランでは、米国による経済制裁によって雇用状況が悪化し、若者たちの不満はきわめて高い状況にある。そこに今回の原油価格のマイナスが拍車をかけるならば、イラン経済が受けるダメージは測りしれない。

◆今後の中東リスク
 おそらく、今回の価格マイナスは一時的なことで、それが長期化することはない。だが、原油価格の下落の長期化がどのような中東リスクを生むかは、いまのうちからあらゆるシナリオを考えておくべきだ。昔と比べ、石油は中東の独占物ではない。米国のシェールガス、北極海の開発など各地域で石油ビジネスが活発に行われるようになり、競争は激しくなっている。中東産油国の衰退はデモや暴動だけでなく、テロや新たな紛争を生むリスクを内在している。

Text by 和田大樹