脅した中国、屈したNBAに米国で批判 ロケッツ騒動に見る中国ビジネスの難しさ
◆金が第一 巨大市場では自由も捨てる?
この事件でのNBAの対応に、米国内では批判が出ている。ニューヨーク・デイリー・ニューズ紙に寄稿したペンシルバニア大学のジョナサン・ツィンマーマン氏は、これまでNBAは人種差別など政治的な問題に抗議の声を上げる選手たちを誇りにしてきたのに、今回は事件を水際で食い止めようとしたと非難する。ワシントン・ポスト紙(WP)の社説も、NBAのコミッショナー、アダム・シルバー氏が「大切な問題に直接声を上げようとする欲求は、NBAプレーヤーであることの一部」とインタビューで述べたことに言及し、モリー氏のツイートは完全にこの理想に一致していると主張している。
ツィンマーマン氏は、5億人の視聴者を持つ中国市場はNBAにとってドル箱で、言論の自由よりも金を選んだことは明白だと指摘する。本当に不適切なのは中国に加担するNBAのほうだと述べ、NBAは金のために香港を裏切ったのであり、それを理不尽と呼べないのなら、何を持ってそう呼べるのかとしている。WPも莫大な放映権などビジネスが足かせになっているとし、NBAほどの団体が簡単に尻込みするなら、共産主義の独裁者の検閲にだれが抵抗するのかと問うている。
◆報復か、冷静な自己検閲か? 分かれる意見
WSJの編集者、エリオット・カウフマン氏は、NBAを超え、中国批判を展開している。同氏は、西側とのビジネスで、脅しは中国が最初に用いる手段だと述べる。これまでも中国に不快感を与えたとされる企業や団体が相次いで謝罪に追い込まれており、もうアメリカは黙っておらず、報復すべきだとしている。
今回の事件では、政党を超えて有力な政治家たちも批判を展開しているのが期待できる兆候だとし、中国はロケッツやNBAのこびへつらいに含み笑いを浮かべているだろうが、アメリカは笑ってはいないと断じる。アメリカは不愉快な現実に気づいたとし、トランプ政権次第で、戦略的な対応でアメリカ人をまとめることもできるという見方だ。西側が中国を変えられなくても、中国に我々を変えさせてはならないとしている。
一方ブルームバーグ・オピニオンのコラムニスト、タイラー・コーエン氏は、今回の事件は広報の失敗だと言い切る。そもそもNBAは中国市場での拡大を目指しており、幹部級の人間が不用意な発言をすることでこういう事態を招くことは想像できたはずだとする。また、外交やビジネスをするものにとっては、自己検閲もよくあることだと述べている。中国政治は、NBAが踏み込めるものではなかったようだと同氏は述べ、アメリカは言論や表現の自由をサポートしていくべきだが、すべての戦いに全米の多国籍企業が参加する必要はないとしている。
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