香港デモ、蔡総統に追い風に 台湾で中国への不信感高まる

Chiang Ying-ying / AP Photo

◆中国への不信感 蔡氏の支持アップに貢献
 近年、国民党の政治家には中国寄りが目立つが、2016年に当選した蔡英文総統は「一つの中国」を認めようとせず、中国にとっては気に入らない存在だ。しかし今年1月に習近平主席が台湾政策に関するスピーチを行い、統一は当然で、力を使ってでも達成すると述べると同時に、台湾は「一国二制度」で自治を維持できることを示唆した。

 しかしこの発言は逆噴射し、昨年11月に地方選で大敗し再選も危ぶまれていた蔡総統への支持は急上昇する。さらにそこに香港のデモが始まった。戦略国際問題研究所のボニー・グレーザー氏は、雨傘運動から今回のデモまでの経過が、台湾人に中国は信用できないという気持ちを持たせてしまったと述べる(AFP)。

 来年1月の総統選で2期目を狙う蔡総統は、繰り返し香港での衝突は目を覚ませという台湾人へのコールだと述べ、総統選は「自由と民主主義のための戦い」だとし、一国二制度は民主的な台湾には受け入れられないと断じた(AFP)。香港デモの映像は習主席の物議を醸した発言以上にリアリティがあったのか、結局勢いに乗った蔡総統は、13日に行われた総統選の党公認を決める予備選で勝利した。

◆誤算だった 蔡氏復活に中国イライラ
 中国は、2016年に蔡総統が当選して以来、台湾政府とのコミュニケーションをやめ、軍事演習などさまざまな嫌がらせをしてきた。当然、総統選では蔡総統が負けることを望んでいるが、香港のデモは中国にとってタイミングが悪かった。そもそも台湾で起きた香港人の殺人事件が、デモを引き起こした「逃亡犯条例」の改正につながっている。改正案自体が台湾総統選を見据えた台湾による陰謀ではなかったかという説まで出ており、中国側の怒りは大きいようだ(AFP)。

 Slateは、ここ数週間の台湾と香港の団結は、中国のソフトパワーの問題を露呈させたと述べる。経済的成功と世界における急速な台頭を考えれば、中国が香港や台湾にここまで強く統一を主張するべきではないだろうと述べつつ、中国が我慢しきれずより極端な一手に打って出る可能性もあると見ている。次の総統が誰になっても、台湾の民主主義にはさらなる苦難が待ち受けている。

Text by 山川 真智子