2期目モディ政権が直面する外交課題 対米中ロ、隣国で難しい舵取り

AP Photo / Saurabh Das

 インドのナレンドラ・モディ首相が2期目の政権を勝ち取った。緊張状態にあるカシミールでインド治安部隊が受けた自爆攻撃に対して、パキスタン国内への空爆により対応を講じた後のことだ。この数十年で最も高い国内の失業率から有権者の関心をそらすことに成功した。

 5月30日の首相就任式を終えると、米中貿易戦争や、急成長中のインド経済を支える安価な石油の供給国として重要なイランとアメリカの間に高まる緊張関係など、モディ首相の巧みな手腕による舵取りが期待されている。また南アジア域内においては、これまでの勢力を維持することを求める圧力にも直面するだろう。

 モディ首相を支持する多くの人々は、国際社会においてインドの地位が高まっているのは、ヒンドゥー至上主義を掲げるインド人民党(BJP)を率いる68歳の指導者の功績によるものだと考える。全ての投票結果が出る前にもかかわらず、アメリカのドナルド・トランプ大統領や中国の習近平国家主席、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相から、与党の勝利を祝福するメッセージが送られたことで、支持者からの信頼はさらに強まったようだ。

 ラリット・マンシン元駐米インド大使によると、外交政策はモディ首相が残した功績の中でも注目すべきことの1つであり、その精力的な取り組みは、これまでの他の首相には見られないものだったという。

 モディ首相は最初の任期中、多くの国内問題について奮闘して取り組んでいた。それにもかかわらず、さらに5年間の続投が決まったことで、世界各国の指導者らはインドが国際社会においてより大きな責任を担っていくと関心を寄せている。インド太平洋地域の安全保障に対する緩衝的役割や、インドの経済自由化、気候変動への取組みが期待されている。

 今日の国際情勢下で策略を立てることは、モディ首相にとって相当に困難なことだろうと、インドの元外交官ディリップ・シンハ氏は述べる。

 中国のアジアでの覇権的姿勢を抑制するため、アメリカはインドが中国政府に対する拮抗勢力としての機能を果たすよう求めている。しかし同時に、モディ政権に対し、貿易障壁を引き下げることも要求している。

 アメリカのウィルバー・ロス商務長官は5月初め、インド政府の首脳陣に対し、インド市場に参入しようとするアメリカの企業が、関税や無数にある規制のために悪戦苦闘していると苦言を呈した。貿易不均衡を縮小させるため、インドがアメリカ国防総省と締結した契約は総額で150億ドルを超える。

 世界経済フォーラムによると、インドの消費者市場規模は世界第3位になりつつあるという。2019年の1兆5,000億ドルから、2030年までには6兆ドルに増えると見込まれている。

 一方で、トランプ政権はイランへの制裁を強化し、対イラン禁輸制裁の適用除外としていたインドを含む国に対する措置を撤廃した。これによりインドは、原油の国別輸入の第3位であったイランに代わる供給国を探さなければならない。

 湾岸地域を取り巻く大きな脅威によって、原油価格が上昇し、移住労働者として働く700万人のインド人の安全が脅かされかねない。インドにとって極めて困難で、力量を試される状況だと、シンハ氏は述べる。

 冷戦中、パレスチナへの支持を表明し大きく偏っていたインドは、イスラエルと表立った関わりを持たなかった。しかしこの25年間で2国間の関係は雪解けが進んできた。

 インドとイスラエルが国交を樹立した1992年の貿易総額は2億ドルであったが、2016年には41億6,000万ドルとなり、飛躍的に増加した。両国の結びつきが強まることで、インドと他の中東諸国の長年にわたる関係に混乱が生じることは覚悟の上である。

 アメリカからの武器購入契約は、ロシアがパキスタンや中国との関係を強化している状況も重なり、冷戦時代から続くロシアとインドの関係に難題をもたらす。

 野党のインド国民会議(INC)が声明で語ったことによると、インドとロシアの関係はやはり、ほころびを見せ始めている。近年、戦闘機はフランスと取引し、他の軍用装備品はアメリカから購入している。その結果、インドにとって安定した防衛パートナーであった国は置き去りにされてきたという。

 インドが直面する中国との間に抱える最大の難題は、恐らくインド北東部の国境にある。中国政府は南アジアのインフラ開発に数十億ドルもの投資を行っている。

 中国が公約したことをすぐに実現する一方で、インドはプロジェクトの遂行に何年もかけている。インドは、従来の勢力範囲にあるスリランカ、バングラデシュ、ブータン、ネパール、そしてモルディブとの関係を維持する必要がある。しかし、インド企業によるプロジェクトの遅れにより予算が超過しており、中国のスピード感のある開発に近隣国は目を奪われている。

 2017年、中国がブータンとの三国国境付近のドクラム高原で道路建設を始めたことがきっかけで、インドと中国間でにらみ合いが続いた。それ以降、モディ首相は習国家主席との関係改善を慎重に進めてきた。1962年にも両国は国境をめぐって対立し、熾烈な戦争を行っている。その対立はくすぶり続けている。

 しかし、両国の緊張は近年緩和されてきた。パキスタンを拠点とする過激派組織の指導者マスード・アズハルを国際テロリストとして制裁対象にする国連の決議を、中国政府は当初反対していたものの最終的には受け入れた。同組織は、カシミール地方での2019年2月の自爆テロについて犯行声明を出している。

 2014年に行われたモディ首相の就任式には、当時のパキスタン首相ナワーズ・シャリーフ氏をはじめ、南アジア諸国の首脳陣らが招かれた。しかしながら、2019年2月、近隣諸国は核戦争勃発の危機に立たされた。インドがテロだと呼ぶものを育成するための支援をパキスタン政府がやめない限り、モディ首相は公式な対話はしないと公言している。

 インド、パキスタン両国が1947年にイギリスから独立して以来、3度の戦争が行われている。そのうち2度は、分断されたカシミールの統治をめぐって勃発した。

 カシミールで大多数を占めるイスラム教徒は、モディ首相の再選によってさらに苦境を強いられると考えている。これまでの5年間、モディ政権は軍に自由裁量を与え、インドによる統治に抵抗する勢力を、武装過激派のみでなく一般市民も標的として弾圧し、全力でカシミールをインドの一部として維持してきた。

 また、モディ首相の勝利を「災い転じて福となす」と捉える人もカシミールにはいる。モディ首相の強硬な姿勢に駆り立てられ、地域の自決権を求める運動が活性化することもあり得る、と話す。

 カシミールをめぐるインドの政策は霧で覆い隠されていたが、モディ首相とその仲間たちのおかげでだんだんと視界が開けてきている、と学校教師のサジャド・アーメド氏は話す。

By ASHOK SHARMA Associated Press
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP