米中貿易戦争、解決の糸口はあるのか? 対立の原因と現在の状況

AP Photo / Martin Meissner

 アメリカと中国は、ここ数ヶ月にわたって貿易をめぐる係争を続けてきたが、両国の衝突は今月に入ってますますヒートアップしている。

 アメリカ側は、貿易交渉における過去の合意を中国側が破ったと主張し、5月10日に総額2,000億ドル相当の中国製品に対する関税をそれまでの2倍以上に引き上げた。一方、中国政府もそれに対抗し、総額600億ドルのアメリカからの輸入品に対する関税引き上げ措置を行った。

 さらにアメリカは5月20日、その時点でまだ関税の対象となっていなかったおよそ3,000億ドル相当の中国製品に対しても25%の関税を課す計画を発表。対象となる品目は、スニーカーからドアチャイムまで、きわめて多岐にわたる。

 この一連の出来事によって、「米中二つの経済大国は、貿易に関する妥協に間もなく達するだろう」という、ほんの2週間前まで大勢を占めていた従来の見方が大きく揺らいだ。

 現在までの情勢を、ここにまとめてみる。

◆米中は何をめぐって対立しているのか?
 アメリカ側は、人工知能やロボット技術、電気自動車などの最先端技術分野において、中国政府が中国企業を優位に立たせるために略奪的戦術を取っていると非難している。この戦術には、アメリカ企業のコンピュータをハッキングして企業秘密を盗む、中国市場への参入の見返りに機密性の高い技術を譲渡せよと企業側に強いる、中国のハイテク企業に不当な助成金を出す、などが含まれるとアメリカ側は主張している。

 トランプ大統領はまた、アメリカが抱える巨額の対中国貿易赤字について繰り返し不満を表明し、この赤字はアメリカ歴代政権の弱腰な対中姿勢によってもたらされたものだと非難している。その赤字額は、昨年には3,790億ドルという記録的な水準に達した。

 昨年7月以降、トランプ大統領は中国からの輸入品をターゲットとした関税引き上げ攻勢を徐々にエスカレートさせてきた。この5月17日に行われた関税引き上げにより、アメリカは総額2,500億ドル相当の中国製品に対して25%の関税を課しているのが現状だ。また中国側もそれに対抗し、トランプ大統領の支持者の多いアメリカ内陸部に打撃を与えることを意図して、大豆などの農産物を中心とするアメリカからの輸入品1,100億ドル相当をターゲットに関税を引き上げた。

 5月中旬に両国の対立が急激にヒートアップするまでは、米中両国の貿易交渉は進展を見せているものと考えられていた。大多数の人々が、中国は貿易における企業秘密の保護を強化し、外国企業に対して中国市場への幅広い参入を保証するだろうと期待していたのだ。

 もっとも、5月17日の関税引き上げ発表以前の段階で、米中関係はすでにぎくしゃくしたものだった。

 アメリカの当局者は、「中国は、これまで何度も実施を怠ってきた両国間の合意事項をすべて厳格に履行すべきだ」と主張している。中国からの輸入品に対するアメリカの関税が今後どうなるかは、現時点では不透明だ。中国側はすみやかな関税撤廃を求めているものの、アメリカ側は、過去のあらゆる合意を遵守するよう中国に圧力をかけるための有効な手段として、引き続き関税を維持したい考えだ。

◆解決の見通しは?
 今後の解決の見通しは、以前にも増して不透明な情勢だ。米中両国は、この問題で妥協に至りたいという意思そのものは現在も放棄していない。目下のところ、中国の経済成長にはやや陰りがみられる。国際通貨基金は、中国の経済成長率は昨年の6.6%から今年2019年には6.3%、2020年には6.1%へと低下すると予測している。アメリカとの貿易戦争は中国の輸出企業に打撃を与え、それまで取引企業や消費者の間にあった中国企業への信頼感も損なわれてしまった。

 米中の貿易関係の緊張は、金融市場にも悪影響をもたらしており、トランプ大統領が自らの経済政策への信任投票と位置づけるアメリカの株式市場の動向も予断を許さないものとなっている。さらには中国側の報復関税によって、トランプ大統領の重要な政治基盤であるアメリカの農業者層が深刻なダメージを受けているのだ。

 一方、アメリカの経済界と議会民主党は、トランプ大統領が中国に対して、中国の人々の行動を根本から覆し、外国企業に向けて市場開放するよう過剰に要求するあまり、結果として米中関係を破綻の瀬戸際まで追いこんでしまったと非難している。

 中国は一党独裁体制の国であり、習近平主席としては、必ずしも国内の有権者の意向に政策を左右される立場にはない。しかし、「アメリカの要求には屈するな」という国内からの強い圧力に現在直面していることは事実だ。

 米中両国は、5月17日に決裂した貿易交渉をいずれは再開する見通しだが、現時点ではその交渉日程はまったくの白紙である。そんななか、トランプ大統領は、6月下旬に日本の大阪で開催されるG20サミットの場で習主席と会う予定だと述べている。

 しかし現時点ではまだ、米中両国はお互いに交渉の余地を残している。実際には中国側の関税引き上げは、6月1日までは実施されない。アメリカ側の関税引き上げ措置に関しても、5月17日以前にすでに出荷済みの中国製品には関しては、この引き上げ税率は適用されない。中国から輸出された製品が、船で太平洋を横断するまでには約3週間を要する。つまり、輸入業者が引き上げ後の税額を実際に支払うようになるまでには、交渉・合意に至るための時間がまだ今も残されているということだ。

◆トランプ政権の貿易交渉は、何らかの進展を見せているか?
 これに関しては、進展していると言える。トランプ政権が現在交渉を重ねているカナダとメキシコとの新たな北米貿易協定に関して、5月17日、協定締結に向けた一定の前進が見られた。つまりアメリカ側が、カナダ・メキシコ産の鉄とアルミニウムの輸入関税撤廃に同意したのだ。

 アメリカ、メキシコ、カナダ間における協定、ないしは「USMCA」と称される地域貿易協定が実際に発効するためには、この3ヶ国すべてにおいて、議会での承認を受ける必要がある。ここまでのところ、輸入金属に課されるアメリカの関税問題がカナダ・メキシコのみならず、アメリカ国内でもホットな争点となってきた。米国議会の主要な議員らからは、輸入金属を原料に使用しているアメリカ国内の製造業者のコスト増をもたらす要因だとして、この関税に対して不満の声が上がっていた。今回トランプ大統領が関税撤廃を決定したことによって、これまで以上にUSMCAが米国議会で承認されやすい環境が醸成されたと言える。

 またアメリカ政府は同日、輸入自動車への関税を引き上げるかどうかの最終決定を下すまでに、新たに6ヶ月の猶予を置くことを決定した。仮に関税が引き上げられた場合、日本とEUにとっては大きな打撃となると予想されている。

 トランプ大統領とアメリカ商務省は、自動車の輸入はアメリカの国家安全保障上の脅威であると位置づけている。トランプ大統領は、現在アメリカの通商代表を務めるロバート・ライトハイザー氏が、もし仮に日本とEUから自動車貿易に関する譲歩を引き出せない場合には、アメリカは自動車関税引き上げを行うだろうと表明している。

By PAUL WISEMAN Associated Press
Translated by Conyac

Text by AP