強硬姿勢に立ち返る北朝鮮 金正恩氏が軍事視察を再開 情勢分析
北朝鮮の指導者・金正恩委員長は、2ヶ月前にベトナムのハノイで行われたトランプ大統領との首脳会談が不調に終わった後、徐々にではあるが、強硬な姿勢を見せ始めている。
金委員長はこの5ヶ月間で初となる軍事視察として、4月16日に北朝鮮国内の空軍基地を訪問し、戦闘機の臨戦能力を精査した。その翌日には、金委員長が新型の「戦術誘導兵器」のテストに立ち会ったと北朝鮮の公式メディアが伝えた。ただし報道の中では、その不穏な名称の兵器の具体的な説明はなく、それを示す写真やビデオも流れなかった。
金委員長は4月初め、ハノイでの米朝首脳会談の中でアメリカが頑なに「ギャングのような」要求を突きつけたと主張し、深い失意を表明したばかりだ。今回の軍事関連の動きは、その発表に続いて行われた。
また、ほぼ同時期の4月18日には、「ウラジーミル・プーチン大統領の招待で金委員長は今月下旬にロシアを訪問する」というロシア政府の発表があった。ただし、その訪問に関するそれ以上の詳細は公表されていない。
ここまでの1年を振り返ると、金委員長が中国、アメリカ、韓国の指導者らと立て続けに首脳会談を行ってきた一方で、ロシアのプーチン大統領はやや蚊帳の外に置かれているような印象があった。しかし現実には、実際に本人がそう望めば、プーチン大統領は北朝鮮に対して重要な政治支援ないしは経済援助を与えるより大きな役割を演じられるという事実が、改めてはっきりと示された形だ。トランプ大統領にとっては頭の痛いところだろう。
今のところ金委員長は、自分とトランプ大統領との間には良好な個人的関係が続いていると主張している。だが、金委員長と北朝鮮の高官らは、トランプ大統領の最高顧問であるマイク・ポンペオ国務長官とジョン・ボルトン国家安全保障担当補佐官の二人に対しては、次第に高まる苛立ちを隠そうとはしていない。
「ハノイでの首脳会談において我々が学んだことは、すでに合意に近付いている話し合いであっても、ポンペオ氏が何か言うたびに話が噛みあわなくなり、何の成果も得られぬまま終わってしまう、ということです。私たちの対話の相手がポンペオ氏ではなく、我が国とのコミュニケーションに際してより注意深く成熟した他の誰かになることを望んでいます」。朝鮮中央通信は4月18日、北朝鮮外務省のアメリカ担当局長を務めるクォン・ジョングン氏がこのように述べたと報じている。
北朝鮮の国会にあたる最高人民会議に向けた発言のなかで金委員長は、北朝鮮とアメリカの双方にとってより受け入れやすい交渉戦略を、今年末までにアメリカ側が提示するよう要望した。
金委員長のこの主張は、「核兵器とアメリカ本土に到達可能なミサイルの開発を理由に北朝鮮に課された一連の制裁を解除せよ」とのメッセージとも受け取れる。
しかし、その一方で金委員長は、それまでの期間は自ら宣言した核実験と長距離ミサイルの発射実験の自主的な一時停止措置を継続するとも述べ、アメリカとの間で取り交わした誓約を堅持する立場を示唆した。
アメリカ軍の当局者は、特筆すべき規模のミサイル発射は4月17日には検知されなかったと述べ、北朝鮮が言う「新開発の超近代的戦術兵器」とは、実際には対戦車誘導ミサイルその他の短距離誘導システムだった可能性があるとの見方を示した。
仮にそうだとすれば、今回の北朝鮮の発表は単純に、アメリカと韓国が最近実施した軍事演習への対抗措置として行われた可能性がある。
北朝鮮の公式宣伝を伝えるウェブサイトは、今回の兵器実験に関する発表が行われる直前に、先に行われた一連の米韓軍事演習が「戦いのムードを高め、戦争の危機を喧伝する」との批判を掲載していた。
韓国冬季オリンピックが開催された昨年初めから、米韓両政府は恒例の合同軍事演習の名称を変更し、その規模も縮小してきた。そしてその方針は、昨年6月のトランプ大統領と金委員長の初の首脳会談後も貫かれてきた。だが北朝鮮側は、たとえ規模を縮小したとしても、合同軍事演習そのものが米朝対話の精神に反すると反発を示している。
金委員長と北朝鮮高官らはまた、ここまで米朝間の仲介役を務めてきた韓国政府と文在寅大統領の取り組みを、ハノイ会談以降は公然と批判してきた。その内容は、韓国の文大統領は同盟国のアメリカと過度に癒着しており、その姿勢が南北の共同開発プロジェクトの進行にも支障をきたしている、というものだ。同プロジェクトは、北朝鮮国内の老朽化したインフラを新たに構築するのに欠かせない重要な投資をもたらすと予想されている。
文大統領自身は、それらの開発プロジェクトでの北朝鮮との連携に強い意欲をみせている。しかしアメリカ政府側は、そのことによって現行の制裁の枠組みが損なわれることのないよう希望している。
北朝鮮と韓国はここまですでに3度の首脳会談を行っており、文大統領は、またいつでも北側と会談する準備ができていると発言している。同様にアメリカのトランプ大統領も、3度目の米朝首脳会談の開催を望んでいると示唆している。しかし、経済制裁の緩和と北朝鮮の軍縮に関するアメリカ・北朝鮮双方の主張の隔たりによって、両国の対話がこれ以上進まないのではないかとの懸念が、いま急速に高まっているのも事実だ。
アメリカの政府当局者は、北朝鮮側が核施設と核兵器、そしてミサイルを検証可能な形で放棄すると確約するまでは、北朝鮮が望む制裁緩和をアメリカ側が認めることはないだろうと語っている。一方、金委員長にとってそれらの兵器は、自らの指導体制の存続を保証する最大の切り札となりうる。それを自ら放棄するとの意思表明を行う兆候は、今のところみせていない。
By ERIC TALMADGE Associated Press
Translated by Conyac