「完全奪還」でイスラム国の脅威は消えたのか? 地図では見えない脅威の本質

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◆トランプ氏が考えるISと現実のISの違い
 では、トランプ氏が誇らしげに宣言するように、国際社会はISに勝利したのか? 先に結論を言うと、ISの脅威は消えていない。

 2月6日の発言から考えると、トランプ大統領にとってのISとは、正にシリアとイラクで支配領域を拡大し、一定の統治を実現したISを意味している。しかし、依然としてシリアやイラクで逃げ続けるIS戦闘員は存在するし、バグダディ容疑者の行方もわかっていない。トランプ氏はIS情勢を部分的にしか見ておらず、6日の発言からはその全体像を把握していないように感じられる。

◆東南アジアから西アフリカに広がるISの求心力
 今日ISを支持するIS系組織はフィリピンやバングラデシュ、パキスタンやアフガニスタン、イエメンやエジプト、リビアやナイジェリアなど、東南アジアから西アフリカに広範囲に広がっている。しかも、シリア・イラクで活動していた一部の戦闘員はリビアやアフガニスタンなどに移動し、そこでIS系組織に加わるなどしている。

 もちろん、シリア・イラクのIS中枢ほど規模的に大きいわけではなく、各組織によって異なる部分(どれくらいIS中枢を模範としているか、暴力的な活動を行っているかなど)も多いが、今日では中枢を根絶したとしても、周辺組織が残っている。言い換えると、ISは既に組織としてだけでなく、ほかの過激組織を引きつける一種のブランド、またそれらを繋ぐネットワークとして機能しており、軍事行動のみで破壊できる相手ではない。

Text by 和田大樹