印パ緊張のもう一つのリスク 発端のテロ、過激派の不穏な動き
◆印パ関係の緊張による具体的な影響
今回の緊張によって、さまざまなところに影響が出ている。たとえば、エミレーツ航空やカタール航空、エティハド航空やスリランカ航空、エア・カナダなどは先月27日、インドとパキスタンに向かうフライトを停止した。また、シンガポール航空やブリティッシュエアウェイズなどは飛行ルートの変更を余儀なくされているという。
また、先月27日、パキスタン軍機がカシミール地方上空でインド軍機を撃墜したことにより、イスラマバード空港やカラチ空港への民間機の離発着が制限される事態となった。外務省の最新情報によると、3月2日13時時点でパキスタン国内の主要空港は再開したというが、依然として予断を許さない状況が続いている。
一連の影響によって、インドに進出する日系企業の間では、現地駐在員の避難や社員の出張中止などを検討する動きが少なからず出ている。近年、インドに進出する日系企業は増加傾向にある。印パ関係による緊張は、海外邦人の安全や日系企業の経済活動など多方面に影響を及ぼしている。こういった視点からの取り組みも、今後いっそう重要だ。
◆イスラム過激派と今後の情勢
今回の事態を受け、インドとパキスタンの国家間リスクが多く指摘されているが、筆者がテロリズム研究者という視点から、もう一つのリスクを指摘したい。それは南アジアを拠点とするイスラム過激派の動向だ。
今回の緊張の発端は、JeMによるテロ事件だった。JeMは、カシミール地方のインドからの分離・独立を目指すイスラム武装組織で、アフガニスタンのタリバンや国際テロ組織アルカイダ、またインド史上最悪のテロとなった2008年11月のムンバイ同時多発テロ(170人以上死亡、日本人1人も犠牲)を実行したラシュカレタイバ(LeT)とも歴史的な関係があるとされる。印パ関係の緊張によって、JeMやその他のイスラム過激派が、それに便乗する形でテロ活動を活発化させることも懸念される。
また、近年、テロ研究の世界では、カシミール地方を拠点とするイスラム国(IS)支持者の動向(首都デリーでは、IS関連のテロ未遂事件も発覚している)、インド亜大陸のアルカイダ(AQIS)の動きを懸念する研究や分析が以前より盛んにみられる。印パ関係という国家間リスクのほかに、こういった暴力的な非国家主体の動向にも注意が必要だろう。
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