単なる領土問題ではない、ロシアにとっての北方領土 見え隠れする米ロ対立

Надежда Голумбиевская / Wikimedia Commons

◆ロシアにとっての北方領土とは?
 日本人からすると、「領土問題を解決することでロシアは経済的メリットを得られるのになぜ渋るのか」、と感じる人もいるだろう。しかし、上記のプーチン大統領の発言からは、ロシアの確固たる強い意思を読み取れる。

 ロシアにとって、北方領土問題における相手は、日本だけではない。例えば、ロシアが4島を返還し、その見返りに日本が経済協力をするというシナリオが実現すれば、日本にとっては悲願の領土返還となるが、ロシアにとっては経済協力以上に大きな安全保障上の懸念を生み出すことになる。4島返還によって主権や施政権が日本に移るということは、それは安全保障上、日米安全保障条約第5条に基づく米軍の対日防衛義務の適用範囲になることを意味する。簡単に言うと、それによって米軍の軍事的影響力の範囲が、国後や択捉まで北上することになり、ロシアにとっては絶対に回避したいシナリオなのだ。日ソ共同宣言では、歯舞・色丹の2島返還が明記されているが、それでさえもロシアは「米軍北上論」を危惧するだろう。

 昨今、プーチン大統領も北方領土問題についての発言のなかで、日米安全保障条約を巡る懸念に言及した。今日の世界秩序では、米国のパワーが相対的に低下し、中国やロシアが覇権主義、拡張主義を顕著に示している。そういった権力分散型の国際秩序に入っていくなかにおいては、米国を巡るロシアの意思、発言というものは今後一層強くなるだろう。北方領土を巡るロシアの態度も、安全保障というものが今後さらに日露会談のなかで議論されていくかもしれない。

 領土問題の北方領土ではなく、安全保障問題としての北方領土、これに我々はどう向き合っていくべきなのだろうか。

Text by 和田大樹