AP分析:サウジ記者殺害の影響は? 皇太子の王位継承と国際社会の制裁

AP Photo/ Paul White

 トルコ・イスタンブールのサウジアラビア領事館で発生した、サウジアラビアのジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏殺害事件。サウジアラビアでは、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子への権限移譲がこれまで通り続く見通しだが、この事件によって西側各国の政府や企業との関係に回復不能な悪影響を及ぼし、皇太子が掲げる野心的な改革計画も重大な危機にさらされる可能性がある。

 これまですでに、イエメンでの悲惨な戦争やサウジの実業家・政治活動家の粛清によって、サウジ政権への信頼は大きく損なわれている。2日に発生したサウジアラビア当局によるカショギ氏殺害事件の真相は今なお究明中であるものの、事件はすでに国際的な激しい非難を集めており、ここまで急ピッチで権力掌握を進めてきた33歳のムハンマド皇太子は、目下、最大の危機に立たされている。

 自ら主導する石油依存経済からの脱却を目指す改革に、各国からの積極支援を取り付けたいと望んでいたムハンマド皇太子だが、今現在、サウジ王室はこの事件に対する制裁の危機に直面している。サウジアラビア自体は、いかなる制裁行為に対しても報復すると強気の姿勢を示しているが、外交上の武器として石油減産を発動することは、むしろ皇太子の掲げる経済改革の達成をさらに遠ざける悪い結果をもたらすとの分析も出ている。

                                                                                                                 

「現時点では、この問題に対して西側諸国の政府がどの程度足並みをそろえて対抗措置をとり、どの程度までサウジ批判を拡大したいと考えるのか、という部分が焦点になっています」と、ロンドンの英国王立防衛安全保障研究所で中東を専門とするシニア研究員のマイケル・スティーブンズ氏は述べた。

「サウジアラビアに対して、二度とこのようなことを起こすなというメッセージを発する意味では、はたして国際的な金融制裁だけで十分なのか。そこの部分で、意見が分かれています」と、スティーブンス氏は続けて語った。「それでは不十分だという意見もある一方、逆にアメリカなどは、むしろそれは行き過ぎた措置だと認識している可能性があります」

 カショギ氏殺害を受けて、ムハンマド皇太子の側近である上級補佐官らが更迭され、18人の容疑者が逮捕された。それでも、父親である82歳のサルマン国王の庇護下にあるムハンマド皇太子自身は、同国の諜報機関改革パネルの責任者に新たに指名されるなど、これまで通り王位継承者として留まる動きを見せている。

 ムハンマド皇太子を自分の後継者に任命したサルマン国王は立場上、ここまで築いた王室内の合意を覆して別の後継者を指名する権限も確かに持ってはいる。

 しかしながら、ムハンマド皇太子の王位継承を露骨に阻害することは、「結果として、同国の不安定化を招きかねません」。そう指摘するのは、ロンドンを拠点とするコンサルティングファームである「湾岸国家解析(GSA)」の専門家、シンツィア・ビアンコ氏だ。「まだ若く、父であるサルマン国王とも密接な関係にあるムハンマド皇太子は、国王や他国の当事者らの意向に縛られて身動きが取れない面もあるのです」

 だが、その状況は、サルマン国王が権力の座から退いた時点で一変する。もし仮にムハンマド皇太子が予定通り国王の座についた場合には長期政権となり、1932年の建国以来の最長政権だった初代アブドルアジズ・アル・サウード国王の任期をも上回る――そのような予測も出ている。

 サウジアラビア政府が出した今回の事件に関する更迭と逮捕の発表は、少なくとも、サウジ王室が持つ強い危機感の表れであるとは言えよう。

 政治リスクコンサルタント「ユーラシアグループ」で中東・北アフリカ研究の指揮をとるアイハム・カメル氏は、「国際社会の反応を評価するのは、時期尚早かもしれない。しかし、ここまでの国際的な動きは、サウジアラビアの王位継承の従来方針に軌道修正がなされることを示唆する、最初の重要なシグナルだと見ることもできる」と記している。

 またカメル氏は、次のようにも記した。「今回の危機をきっかけに、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子の権力基盤が崩壊するとの予測もある。しかし一方では、最近行われたいくつかの公式発表は、むしろ、従来方針どおりにムハンマド王子を皇太子に据え置くことが妥当だという現国王自身の判断を裏付けている」

 目下、サウジアラビアが最も懸念しているのはアメリカの動向だ。サウジアラビアにとってアメリカは、ライバル国家イランへの包囲網を作る上で最重要な軍事同盟国であり、経済改革を進めるには欠かせない海外投資の主要供給国でもある。仮にアメリカが一連のサウジの対応に拒否反応を示した場合には、その他の西側諸国もそれに追随し、今すでにある危機がさらに深化する恐れも出てくる。

 ドナルド・トランプ大統領はここまで、ワシントン・ポストのコラムニストを務めていたカショギ氏の死に対して「厳しい罰を与える」と表明する一方、「サウジアラビアに対するアメリカの武器販売事業を危険にさらすつもりはない」と発言するなど、複数の異なるシグナルを発信している。

 トランプ大統領は、就任後初の訪問国としてサウジアラビアを選んだ過去がある。また、大統領顧問を務める義理の息子のジャレッド・クシュナー氏は、ここまでムハンマド皇太子との間に緊密な関係を築いてきた。トランプ大統領自身は、同皇太子をイスラエルとパレスチナの和平を今後進めるにあたっての盟友とはっきり位置づけている。

 だが、たとえトランプ大統領を味方につけたとしても、今後サウジアラビアが、アメリカ議会から懲罰的措置を突きつけられる可能性は依然として残っている。今回の事件に対しては、共和党・民主党の双方から強い批判が噴出している。実際、議会の一部には、人権侵害や重大な腐敗行為に関わった個人に対して入国禁止や個別の制裁措置を課す「グローバル・マグニツキー法(2016年制定)」の適用を提案する動きもある。

 サウジアラビアは先週、もし仮に制裁が発動されれば、「より大きな行動」に踏み出すとの警告を発した。具体的にそれが何を意味するのか、今のところ当局者らは口を閉ざしているが、サウジアラビアの国営衛星ニュースチャンネルのゼネラルマネージャーは、サウジが自国の石油生産を政治的武器として用いる可能性もあるとの見解を示した。

 サウジアラビアは今から45年前、1973年に勃発した第4次中東戦争において、アメリカ軍のイスラエル支援に対する報復として、他のOPEC加盟国と足並みをそろえて石油の輸出禁止に踏み切った過去がある。それによってガソリン価格は急騰し、当時のアメリカ経済を圧迫した。

 しかしながら、今日の世界経済のなかで当時と同様の禁輸措置が現実に可能かどうかは不透明だ。この11月には、アメリカがイラン産原油の輸入禁止措置を発動する。この情勢のなか、サウジアラビアは、石油の世界市場シェアを何とか取り戻そうと模索中だ。もし仮にサウジが石油輸出の大幅削減を実施に移した場合、それによって目下ムハンマド皇太子が計画する経済の多角化戦略に必要な財源をみすみす失うばかりか、石油価格の高騰によってアメリカのシェールガス産業が息を吹き返し、またそれ以外の国々も石油生産を拡大させるという事態を招きかねない。

「ここまでサウジアラビアが行っていた石油の増産は、特に、対イラン制裁を強化する上で、非常に大きな役割を果たしてきました」と、ワシントンにあるアラブ湾岸諸国研究所のシニア研究員クリスティン・ディヴァン氏は解説する。「ここまで何十年にもわたって築いてきた石油市場からの信頼を石油政策への政治介入によって失墜させることは、サウジアラビアにとっては非常に愚かな選択だと思います」

By JON GAMBRELL, Associated Press
Translated by Conyac

Text by AP

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