米に「徹底抗戦」で窮地に陥るトルコ経済 米追加関税で通貨リラが急落

Presidential Press Service via AP, Pool

 トルコのクーデター未遂事件に関与した疑いで拘束されているアメリカ人牧師の開放をめぐり、アメリカとトルコの対立が激化している。トルコの閣僚への経済制裁に続き、米政権は10日にトルコの鉄鋼とアルミに対しての関税を2倍に引き上げると発表した。これを受けてトルコリラは急落し、経済の行方が不安視されているが、トルコのエルドアン大統領は抗戦の構えを見せている。

◆アメリカと対立 リラ急落で経済危機か?
 10日のトルコリラは対米ドルで14%下落した。トルコ閣僚への経済制裁で、トルコ経済の未来への不確実性が高まっていたところに、鉄鋼・アルミへの追加関税が発表されたことで、リラがさらに下落した。

 トルコ経済は海外からの投資や輸入に支えられ力強い成長を見せてきた。しかしトルコのビジネスと銀行の問題は、収益はリラで得ているが、負債はドル建て、ユーロ建てになっている点だとAPは指摘する。もともとリラ安が続いていたところに、10日の暴落で年初以来41%の下落となった。これにより、ドルで返済することはより困難になるため、経済に損害を与える企業の倒産や銀行の破産などの可能性が高まったとしている。

◆外部への経済的影響は? 政治的影響の方が心配
 独裁体制のトルコだが、地元メディアからも批判の声が聞かれる。トルコのニュースサイト『Ahval』は、アメリカとの関係が悪くなる前から、エルドアン政権は海外からの投資で、巨大インフラプロジェクトやエネルギー投資などを経済成長のため無責任に行ってきたと批判。結果としてインフレ率は16%近くに上昇し、経常赤字の対GDP比も6.5%と危険水域に達した。それにもかかわらずエルドアン大統領は中央銀行に利上げをさせなかったことから、投資家が逃げ出すのも無理はないと皮肉を述べている。

 トルコリラ暴落の世界経済への影響が心配されているが、ベレンベルク銀行のアナリスト、カルステン・ヘッセ氏は、欧州や他の主要経済への影響は限定的だと述べる。トルコに融資している欧州の銀行が損害を被る可能性はあるが、ユーロ圏の銀行危機を引き起こすような規模ではないとしている(AP)。

 むしろ心配されるのは政治的影響だ。欧州はトルコと協定を結び、シリアなど中東からの難民をトルコに留めているが、トルコがこれを見直せば、欧州に大量の難民が流入し、深刻な政治問題になるかもしれないとAPは指摘している。

◆大統領は抗戦を表明 欧米を捨て新パートナーの下へ?
 エルドアン大統領は、アメリカが経済戦争を吹っかけてきたとして、受けて立つ姿勢を見せている。10日の演説では、外国人がトルコを不安定にしようと試みていると非難し、支持者には、家庭に眠っているユーロ、ドル、金をリラに変えるよう呼びかけた(AP)。また、これまで戦略的パートナーとしてともに歩んできたトルコを、テロリスト(牧師のこと)のために犠牲にするなら、アメリカとは「おさらばだ」と述べ、新たな市場、新たなパートナー、新たな同盟に向かうと発言している(トルコ、アナドル通信社)。

 アジア・タイムズは、この新たなパートナーとなるのは中国のようだと述べる。短期的にはリラは下げ続けると見られ、トルコとしては、なんとしても外からの資金を確保したいところだ。さらに技術や物資に関しても、トルコは中国を「新たな友人」と見ており、長期的には「一帯一路」構想で持続的なパートナー関係を構築したい意向だという。もっとも、現状投資や貿易を見れば、トルコと欧米の繋がりは圧倒的に強い。中国に接近したとしても、当面欧米との対立は、トルコにとって好ましいものではないと同紙は指摘している。

 Ahvalは、ロシアや中国がアメリカに反旗を翻すのと、トルコのそれを一緒にしてはいけないと述べる。例えばロシアには天然資源という外貨獲得手段があるが、資源のないトルコはエネルギーを輸入に頼り、輸出品を作るにも、材料を輸入しなければならない。今後数ヶ月間にエルドアン大統領がやるべきは、アメリカへの不満やトルコをグローバル・パワーにするという野心を忘れ、経済を安定させることだとし、IMF(国際通貨基金)の支援を受けるのが賢明だろうとしている。

Text by 山川 真智子