北朝鮮が米兵の遺骨55柱を返還、鑑定へ 動き出す米朝外交

AP Photo / Ahn Young-joon, Pool

 55柱の遺骨を回収するため、米軍機が北朝鮮へ向け出発した。朝鮮戦争で行方不明となっている米兵の遺骨を返還するという「約束を果たした」として、ドナルド・トランプ大統領が金正恩朝鮮労働党委員長に謝意を表明した。

 朝鮮戦争(1950-1953年)で行方不明となった約7,700人の米兵のうち、約5,300人が北朝鮮で消息を絶った。

 北朝鮮の動向はトランプ大統領の対北朝鮮外交が一歩前進したことを示し、さらなる戦没者調査のため北朝鮮に調査チームを派遣する取り組みの再開が期待される。

                                                                                                                 

 今回の遺骨の譲渡は、これまで難航していた北朝鮮の完全非核化を目指す交渉とは「別問題」だと断るジェームズ・マティス国防長官だが、6月にシンガポールで行われたトランプ大統領と金委員長の首脳会談を受け、正しい方向へ一歩踏み出したと話す。

 7月27日、マティス国防長官は報道陣に対し、「これは明らかにシンガポールでの両首脳の合意の前進を示していると解釈しています。また、プロセス再開の第一歩ともみなしています。残る遺骨を遺族の元へ返すためにさらなる取り組みを検討したいと考えています」と述べた。

 開催前に非核化に関する議論が過熱したにもかかわらず、シンガポールでの米朝首脳会談は、朝鮮半島の非核化に向けた漠然とした野心的な目標を設定するにとどまり、時期や方法について言及することなく終了した。

 7月上旬、マイク・ポンペオ米国務長官と北朝鮮高官が行った協議は、非核化に関して「一方的でギャングのような」要求をしていると北朝鮮がアメリカを非難し、波乱含みで幕を開けた。7月25日、ポンペオ国務長官は北朝鮮の非核化協定の前に取り組むべき課題が山積していると述べ、達成の時期については明言を避けた。

 ホワイトハウスの庭園(サウス・ローン)で会見したトランプ大統領は、マイク・ペンス副大統領が遺族と兵士の遺骨を出迎える意向であると述べた。

「今回返還された遺骨は一部だが、金委員長が私との約束を果たしてくれたことにメディアの前で感謝したい。北朝鮮は遺骨の捜索を続けており、金委員長が引き続き約束を実行してくれると確信している」とトランプ大統領は述べ、「この素晴らしきアメリカの英雄たちは、まもなく聖なるアメリカの大地で安らかな眠りにつくだろう」と付け加えた。

 朝鮮戦争から帰還した退役軍人を父に持つペンス副大統領は、遺骨がアメリカに到着した暁には式典に参加するとの声明を発表した。8月1日にソウルで開催された送還式典が終わり、遺骨はハワイへ空輸された。 

「この歴史的瞬間に立ち会えることは、身に余る光栄です。この勇敢な兵士たちとその遺族が私たちの国と自由のために払った犠牲を私たちは決して忘れません」とペンス副大統領は述べている。

 7月27日早朝の韓国。朝鮮戦争の55柱の遺骨を回収するため、アメリカ空軍のC-17輸送機1機が北朝鮮に出発した。同機は遺骨の譲渡が行われたウォンサンから韓国の首都ソウル郊外のピョンテクにあるオサン空軍基地へ帰還した。

 オサン空軍基地では、駐機場に整列した米兵と陸軍儀仗兵が青い国連旗で覆われた箱に入った遺骨を受け取った。朝鮮戦争の休戦協定が結ばれてから65年という節目の日に行われた今回の遺骨の譲渡について、北朝鮮高官はコメントしていない。

 遺骨がハワイに到着次第、人間の遺骨か、そして米兵か同盟国の兵士かを確認するために一連の法医学的鑑定が行われる。

「箱の中に誰が入っているのか私たちにはわかりません」とマティス国防長官は迫りくる課題を強調したが、共に朝鮮戦争で戦った同盟軍の兵士を含むであろう55人の戦没者の遺族にとってこの鑑定は重要だと述べた。

「電報を受け取ったときから、遺族は気持ちに区切りをつけることができませんでした。これまで彼らの存在が公になることはなく、遺体は返還されませんでした」

 戦闘中行方不明者を含む36,000人以上の米兵が戦闘で死亡した。 

 遺骨の返還に伴い、平和条約ではなく休戦協定で停戦した朝鮮戦争の正式な終戦に向け、北朝鮮が早急な協議の要求を強めることが予想される。7月31日には、重武装警備が敷かれている両国境界の緊張緩和を協議する将官級軍事会談が板門店で開催された。

 今回返還された遺骨は、北朝鮮が長期にわたり保管していた200体以上の遺骨の一部と考えられており、農作業や建設作業中に土壌から回収されたと推察される。一方、戦没者の大多数は、地方にまたがる墓地や戦場からいまだ回収されていない。

 アメリカ人戦没者の遺骨回収の取り組みは、北朝鮮の核開発計画と北朝鮮で職務にあたるアメリカ人職員への安全保障が不十分だとする先のアメリカの主張をめぐり膠着状態にあったため、10年以上難航していた。

 1996年から2005年にかけて、米朝合同軍事調査チームが回収作業を33回実施し、229体の米兵の遺骨を回収した。北朝鮮による遺骨の返還が行われたのは、元国連大使でニューメキシコ州知事のビル・リチャードソン氏が6体の返還を取り付けた2007年が最後だった。

 アメリカ政府は、完全かつ検証可能な形で核兵器廃絶に向けたプロセスを確実に実行しない限り、北朝鮮政府が制裁解除と安全面・経済面での十分な見返りを得ることはないと断言している。はたして金委員長は、アメリカが提供し得るいかなる安全保障よりも強力な生存保証かもしれない核兵器の完全放棄に同意するのか。疑問はいまだ残っている。 

By LOLITA C. BALDOR, AHN YOUNG-JOON and KIM TONG-HYUNG, Associated Press
Translated by Naoko Nozawa

Text by AP

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