月の裏、宇宙ステ、衛星ビジネス……進む中国の宇宙開発 米側に危機感

Cai Yang / Xinhua via AP

 中国が初の有人宇宙飛行に成功したのは2003年。以後、複数の宇宙飛行士や宇宙ステーションを宇宙に送り出し、今後は月や火星へのミッションを計画している。また、習近平主席肝いりの「一帯一路」構想のインフラプロジェクトの一環として、衛星ビジネスも拡大中だ。宇宙開発競争で先に立つアメリカは中国の動きを脅威と捉えており、米中間の覇権争いが本格化しそうだ。

◆アメリカを追い越せ! 進歩する中国の宇宙技術
 ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は、トランプ大統領が石炭、鉄鋼、アルミなどの20世紀の産業にこだわっている間に、中国は太陽系の奥にまで視野を広げていると両国を対比する。最近では、中国は月の裏側との通信に使用する中継衛星の打ち上げに成功。今年中に世界初の月の裏側への探査機着陸を目指しており、それを可能にする重要な一歩を踏み出した。

 月の裏側では地球とのコミュニケーションが妨げられ、これまで事実上探査は不可能とされてきた。このミッションが成功すれば、習主席にとって恰好のプロパガンダ・ツールとなるだけでなく、科学的偉業となるとNYTは述べている。

 こういったミッションは、宇宙計画を前進させ、先行するアメリカを追い越そうとする中国の野望の一つだ。2020年までには火星に探査機を派遣し、2025年には月へ有人飛行することを中国は目指している。さらに2029年ごろには木星探査、2050年までにはロボットがオペレーションする月面基地建設まで計画しているとされる。

◆「一帯一路」を衛星技術で結ぶ。強まる中国の影響力
 中国の宇宙技術は、衛星事業でも飛躍的に進歩している。ウェブ誌『クオーツ』によれば、技術力が高まりコストを抑えて作ることができるようになったこともあり、中国は衛星を「インフラ」とみなし、「一帯一路」構想に関与する国々への販売を強化している。その結果、中国の宇宙企業は官民問わず、「一帯一路」の名のもと、中国製衛星のセールスを行っている。途上国などでは通信衛星の需要が高く、中国の資金協力付きで様々な国に導入されている。

 中国は通信、ナビゲーション、リモートセンシングで「一帯一路空間情報回廊」を構築したいと考えており、アメリカの衛星測位システムGPSではなく、中国の「北斗衛星導航系統」の利用を推奨している。北斗システムはすでに30ヶ国をカバーしている。香港のオービタル・ゲートウェイ・コンサルティングのブレイン・カーシオ氏は、衛星が通信インフラで重要な役割を占めることになれば、中国製の衛星を使う国々における、中国の政治的影響力が強まる可能性もあるとしている。また、外国政府が中国のインターネット・インフラに頼ることになれば、中国が衛星を利用し、各国のインターネット・システムに裏口から侵入する危険性もあると指摘している(クオーツ)。

◆アメリカも宇宙強化を発表 覇権争い本格化
 APによれば、宇宙でのアメリカのリーダーシップを取り戻すため、トランプ大統領は新たに「宇宙軍(Space Force)」の創設を国防省に指示したと発表した。トランプ大統領は、アメリカの宇宙計画を再生させ、月に回帰し火星に有人飛行するとしている。安全保障の枠内で宇宙を見ており、中国、ロシア、その他の国にリーダーの座は渡さないと訴えた。

 また数が増大する衛星に関しても、宇宙ゴミの削減のための新政策や、衛星の衝突や解体などを避けるための新たなガイドライン作りの必要性を示し、リーダーシップを発揮することを表明した。

 一方『Space.com』によれば、2022年に稼働が予定されている中国の宇宙ステーションに各国の研究者を招き、様々な実験をしてもらうという中国と国連の共同プロジェクトが立ち上がっている。中国は国連加盟国ならどこでも参加を歓迎すると述べ、宇宙の平和利用を強調している。国連を巻き込んだ中国による宇宙外交ともいえ、宇宙のリーダーの地位を固めつつある。トランプ政権下で孤立するアメリカとは対照的で、アメリカの巻き返しは容易ではないかもしれない。

Text by 山川 真智子